まえぞうのショートショートへようこそ。全部読み切りで、短い時間で読める小説です。ラジオドラマにも採用されています。少しの間、楽しんでいって下さい。

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2008年03月01日

ガラスの靴

「お嬢さん、私と踊って頂けますか?」

「ええ、よろこんで」

 こんな舞踏会に来られたのも、みんな魔法使いのお婆さんのおかげ。でも魔法は十二時には解けてしまう。それまでに帰らなくてはいけない。
 そう思って、時計を見ると十二時直前。

「すいません、もう帰らなければならないのです」

 そう言って男性の手をふりほどき、出口に向かって走り出す。階段にさしかかったとき、十二時の鐘が鳴った。
 靴が片方脱げてしまった。でもそんなこと関係ない。私なんかがこんな舞踏会に来ていたことが知られたら大変なことになる。そう思って必死に走り、何とかカボチャの馬車に乗って、帰ることができた。

 自分の部屋で、舞踏会を思い出す。

『ああいう舞踏会に一度出てみたかったの。安物で着心地の悪いドレス、狭くて乗り心地の悪い馬車。あれはあれで中々楽しいもの。庶民の舞踏会というやつも、たまにはいいものだわ。また、魔法使いに金を積んで、忍び込んでみよう』

 その時、侍女の声が聞こえた。

「お姫様、一体どこに行ってらっしゃったのですか?」


あとがき
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2007年10月20日

ドッペルゲンガー

―――――――――――――――――――――
[ドッペルゲンガー]
自分とそっくりな人間。ドッペルゲンガーを見た者は、数日のうちに死ぬと言われている。

―――――――――――――――――――――

「くそー、何でこんな事になったんだ! せっかく面白い番組が撮影できたのに、放送ができなくなってしまった」

 彼は、有名なテレビ番組のプロデューサー。彼が作った番組の出演者が次々に亡くなるという信じられない不幸に見舞われたのだ。楽しい番組にこんな悲劇が起こったのだ。放送などできる筈もない。彼は決意した。

「このままでは終わらない! 絶対に次回作を作ってやる!『そっくりさん大集合パート2』を」




あとがき
posted by まえぞう at 11:50| Comment(5) | TrackBack(0) | その他のショートショート

2007年03月13日

いじめ

「いじめはどんな世界にもある」

 子供のいじめ対策の答弁の中で発言した、首相のこの言葉によって国会が紛糾した。野党の議員が首相に噛み付く。

「いじめは、どんな世界にもあることだから仕方ないとおっしゃるのですか! 子供たちがいじめで自殺するのも仕方ないと!」

「私が言いたかったことは、子供のいじめだけを問題にしても根本解決はできないと言うことで、大人の社会でのいじめも考慮すべきだと……」

「人格形成時期の子供のいじめと大人社会のいじめを同列に扱うつもりですか!」

「いや、私が言いたいのは、いじめをしている大人が、子供にいじめはいけないと言っても説得力がないのではと言うことで……」

「だから子供のいじめに対策を採らないつもりですか。悲惨な事件がこれだけ増加しているのに!」

「対策を採らないと言うのではなく、もう少し慎重にですね……」

 首相の受け答えがだんだんしどろもどろになっていく。そこに他の議員が口を挟んだ。

「先ほど首相は、いじめはどんな世界にでもあると言われましたね。ということは、国会や政党内でもいじめがあるということですね」

「まあ、そういうことになりますが……」

「実際に、国会内でいじめがあることは私も知っています。そして、いじめられる方の人間が、首相に就ける筈がない。首相! あなたはいじめる方の立場の方だ! そんな人にいじめ対策を任せる訳にはいかない」

「いえ、決していじめているという訳ではないのでありまして……」

 首相は、困ってはぐらかすことしかできなかった。誰が見ても、この答弁は首相の負けであった。

 
 ちょうどその頃、某国で秘密の国際会議が開かれていた。

「今、日本ではいじめ問題で国会が揺れています。首相が『いじめはどんな世界にでもある』と発言したようです」

「いじめはどんな世界にでもある? ははは、これは傑作じゃないか。日本の首相がそんなことを言うなんて。当たっているだけに笑える話だ」

「まあ、それは置いておいて、話を本題に戻します。我が国は、もう少し戦争責任の追及を厳しくするつもりです」

「我が国は、そろそろ日本製自動車の規制を始める予定になっています」

「ODAの名目で、もっと金を搾り取れるように、協力して圧力を掛けましょう」

「マグロ計画はどこまで進んだ? 日本人がマグロを採れないように規制する計画は」

 各国の代表は、本当に楽しそうに会議を進めている。日本いじめ国際会議の場では、いつもこのように楽しい雰囲気になるのだ。


あとがき
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2007年02月28日

棄てられた民

 最近、体の調子が悪い。熱っぽく妙にだるい。周りのみんなも同じ状態のようだ。
 嫌な予感がする。もしかしたら、あの伝説の病なのかも知れない。もしあの病気だとすれば、とんでもないことになる。僕たちは全員、棄てられるのだ。病気の感染拡大を防ぐために。

 そう思っているとき、部屋に防護服を着た人間が入って来た。それを見た瞬間に自分の運命を悟った。やはりあの病気だったのだ。
 僕たちは皆棄てられる!


「また鳥インフルエンザが発生しました。養鶏場の鶏一千羽の処分と半径20キロ以内からの移動制限が……」


あとがき
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2007年01月04日

魔法使いのお婆さん

「本当に可哀相な娘だね。こんなになってしまって」

 お婆さんが、その娘に向かって言いました。まだ若いのに、継母たちにいじめられ、辛い仕事ばかりさせられていた娘です。いつも裸足で水仕事などをさせられているために、その娘の足は、酷いあかぎれ、ひび割れ、水虫で見るに耐えない惨状でした。せっかく綺麗な顔立ちをしているのに、この足を見ると百年の恋も冷めるほどです。でも、靴を履くと全部隠れる範囲なのが唯一の救いです。娘も外に出るときはさすがに靴を履くことが許されているのです。

「たまにはいい思いをさせてあげよう」

 お婆さんは、娘に向かって杖を振りました。すると娘の服が綺麗なドレスに変わったではありませんか。そうです、このお婆さんは魔法使いだったのです。

「その姿で、王子様の舞踏会へ行ってごらん」

 娘はかぼちゃの馬車に乗って、王子様の舞踏会の会場に行きました。そして会場に入ってすぐに王子様が娘の方へ寄ってきました。

「おお! 何と綺麗な女性だ」

 王子様は、娘に向かって言いました。

「どうか、私と踊ってくだ……」

 王子様は、そう言いかけて言葉を途中で止めてしまいました。娘の足が目に入ったのです。百年の恋も冷めるほど酷い惨状の足。靴を履いていると隠れる筈のその足が見えたのです。

 そう、娘の履いていた靴は…………。


あとがき
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2006年12月09日

異常気象

 21世紀になって、世界中で異常気象が頻発するようになった。ここ、中国の山奥でも異常気象により、困っている人たちがいた。

「お前さん、また太ったな」

「そう言うお前さんこそ、太りすぎじゃ」

 まるで、相撲取りのように太ったふたりの老人が会話をしている。

「食べ過ぎなのは、わかっておるんじゃが」

「息をするだけでも、食い過ぎてしまう」

「困ったもんじゃ」


 ふもとの村人が、山を見上げて言った。

「最近、あの山の霞が凄く濃くなったな。全く山の姿が見えない。せっかく仙人が住むと言われるありがたい山なのに」


あとがき
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2006年12月03日

王様の不安

 ある国に、大きな権力を持った王様がいました。王様の家系に代々伝わる秘術があるために、これほどの権力を持つことができたのです。

「しかし、最近は本当に物騒な世の中だな」

 王様は、ぽつりと独り言を言いました。ここのところ、他の国で王様が殺されるという事件が非常に多いのです。部下に裏切られたり、街中で一般人に暗殺されたり。そういう話を聞くたびに王様は、不安になりました。自分は国民に尊敬されているので、大丈夫だと思っても、不安は膨らむばかりです。

「仕方がない。あの秘術を使うか」

 王様は、結局代々受け継がれた秘術を使うことにしました。呪文を唱えることで、魔神を呼び出すことができるのです。昔、王様の先祖が、魔神を助けたことがありました。それから、魔神は王様の家系を継ぐ人たちの願いを聞くことになったのです。王様は、魔神を呼び出して、こう言いました。

「この国の中で、もし私に反対している人間がいたら、その人間を抹殺してくれ」

 王様の言葉に魔神が答えました。

「わかりました。すぐに、言われた通りに致します」

 魔神の力は絶大です。すぐに王様に言われた通りにしました。


 王様は、国中でひとりぼっちになりました。


あとがき
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2006年09月15日

新人類

(くそー、こんな山の中まで追ってくるなんて。なんて奴らだ)

 俺は偶然見つけた洞窟の中で、声を潜めて隠れていた。外から奴らの声が聞こえる。少しずつ、こちらに近づいているようだ。

(まだ生き延びている仲間は、いるのだろうか? もしかしたら俺が最後のひとりなのかもしれない)

 奴ら、新人類は手を緩めることを知らない。我々は、新人類たちとの共存の方法を必死で探った。しかし、同じ世界で、新旧の人類が共存することなど所詮無理だったのかもしれない。我々と新人類では、考え方や感覚があまりにもかけ離れていたのだ。我々は新人類たちの考え方が全く理解できない。多分、新人類から見ると我々の考え方は理解できない筈だ。
 新人類たちは我々に比べて華奢な体型だ。単純な力では、我々の方が強いだろう。しかし奴らは、敏捷で、狡猾で、そして信じられないほど好戦的なのだ。我々では思いもよらない武器や戦法を使う。俺たち旧人類は次々と殺されていった。今では、絶滅寸前だ。

「見つけたぞ! この中だ!」

 どうやら見つかったようだ。こうなったら観念するしかない。残念ながら俺たちの負けだ。世の中は、この好戦的な新人類のものとなってしまうのだ。
 俺は、新人類に殺された。


 旧人類が滅びた後、地球は新人類たちのものになった。長い年月の後、新人類たちは、自らが滅ぼした旧人類の化石を発見し、こう名付けた。

『ホモ・ネアンデルタレンシス(ネアンデルタール人)』


あとがき
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2006年09月13日

神に選ばれた男

 夜中に何かの気配を感じて、ふと目を覚ました。すると、白く長い髭の老人が枕元に立っていた。白い服を着て、杖を持っている。全身から穏やかな光を放っているようで、暗闇の中でもはっきりと姿形が分かる。幽霊かと思ったが、不思議と怖さを感じなかった。

「わしは、神じゃ」

 その老人が言った。言われてみると、神様ってこんな感じだろうと納得できる。

「見ての通り、わしはもう高齢じゃ。神を引退しようと思っている。そこで頼みがある。そなたに、次の神になって貰いたいのじゃ」

 神様になれ? 思いも寄らない申し出に戸惑った。

「何故、私を次の神に選ばれたのですか?」

「それは、そなた自身が一番分かっているであろう」

 私は、政治家だ。それも、四十歳をすぎたばかりだというのに、次期首相を約束されているほど有能だ。確かに、私より神に相応しい人間は世界中探してもいないだろう。
 一瞬、日本の首相の座を捨てることに抵抗を感じた。しかし、考えてみれば私は一国の首相程度に収まる器ではない。神になることを承諾した。

 次の日から、私は天界で神の仕事を始めた。当分の間、前の神が指導役として様子を見ることになっていたが、私の仕事には何も言わず、黙って見ている。
 世の中には馬鹿な人間が多いと思っていたが、神の仕事を始めてからその気持ちがさらに強くなった。

「馬鹿野郎! せっかく戦争を終わらせてやろうとしたのに、変なことをしやがって。かえって犠牲者が増えたじゃないか!」

「何してんだ! 俺の好意を無駄にしやがって。貧富の差が前より激しくなってやがる」

 私は、全世界の人間が幸せになるよう努力した。しかし、馬鹿な人間たちが全てを台無しにするのだ。世界はどんどん悪い方向へ向かっているようだ。でも私のせいではない。馬鹿な人間が悪いのだ。もし、私以外の人間が神になっていたら、もっと酷いことになっていたに違いない。何しろ、私より有能な人間は存在しないのだから。


 その光景を見ていた前の神様がつぶやいた。

「こいつを選んで大正解じゃ。今の人間社会は複雑になりすぎて、思うように操作することなんてできやしない。誰が神をやっても結果は同じ。だが、普通は自分のせいで、多くの人間が不幸になったり死んでいったりするに責任を感じて精神的に参ってしまう。この男くらい厚顔無恥でないと、神を続けることなど到底無理じゃ」


あとがき
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2006年09月03日

三本の矢

 その殿様は病床にあり、起きあがることすらできない状態だった。殿様は、三人の息子を枕元に呼んだ。

「この矢を折ってみろ」

 そう言って、息子のひとりに一本の矢を手渡した。息子は、その矢を簡単に折ってしまった。

「今度は、これを折ってみろ」

 殿様は、三本に束ねた矢を息子に渡した。息子は、矢を持って力を込めた。

『ポキッ!』

 三本の矢は、簡単に折れてしまった。

「……」

 殿様は、その光景を見て一瞬言葉が出なかった。しかし、何かに気づいたように急に笑顔になった。

「サヨを呼べ! 早く!」

 殿様は側室のサヨを呼びつけて、状況を説明した。そして、にやけた顔でこう言った。

「それでどうしても、もうひとり子供を作らなければならなくなった。仕方ないのじゃ。分かるであろう? 早よう、近こう寄れ」

「もう、殿さまったら。こんな時だけ元気になるんだからぁ」


あとがき
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2006年08月29日

東京ホタル

 東京で新種のホタルが発見された。通常、ホタルは清純な水と環境が無ければ棲息できない。しかし、この新種は逆に汚れた水や空気を好む。自然が破壊され棲息域が少なくなったホタルが、絶滅を逃れようと自ら生き延びる術を見つけだしたようだ。この新種は東京ホタルと呼ばれるようになった。

 東京の環境が合っているのか、東京ホタルは都心で大繁殖した。しかしホタルたちにとって大きな問題がひとつあった。東京の夜は明るいのだ。ホタルが光るのは求愛の印。その光がネオンに掻き消される。ネオンに負けずに光ることのできるホタルだけが子孫を残し、他は淘汰される。これを繰り返すことで東京ホタルの放つ光は年々強くなっていった。


〔数十年後〕

「寝る前にちょっとコンビニに行ってくる」

「待ちなさい。外に出るんなら、サングラスをかけなさい」

「あ! そうか! 今はホタルの季節だったんだ!」

 この季節、東京の夜にサングラスは必需品である。

あとがき
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2006年08月22日

お盆

 お盆になると、亡くなった人たちの魂が帰ってくる。魂の数はとても多すぎて数えきることさえできない。普段は、無限に広いあの世にいる魂たちが、この小さな地上に降り立ってくるのだ。地上は魂で一杯になり、まるでラッシュアワーの電車のようだ。このぎゅうぎゅう詰めの状態で、魂たちが会話をしている。

「また、お盆だな。この人混み、いや魂混みはいい加減嫌になってくるよな」

「本当に嫌な季節だな」

「こんな思いまでして、帰ってくる必要があるのだろうか?」

「お盆には、地上に帰ってくるというのは、決まりだからな。仕方がない」

「でも、一体何のために帰ってくるんだ?」

「そうだよな。帰る意味なんて全くないのに」

「それでも決まりだから仕方ない」

「意味が無くなっても、決まりだから今まで通りだなんて。あの世も本当、お役所仕事なんだから」



 人類が絶滅して数十年。未だにお盆になると魂が地上に戻ってくる習慣が続いている。


あとがき
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2006年07月14日

マニュアル人間

「おい、お前の方のマニュアル完成したか?」

 同僚で隣の席のオオカワが聞いてきた。

「まだまだ。当分時間がかかりそうだ。お前の方は?」

「俺の方はもう少しだ。とは言っても俺のは簡単な方だからな」

「でも、最近の若い奴らには困ったもんだな」

「俺たちも若い頃は『マニュアル人間』なんて呼ばれてたけど、最近の若い奴は酷すぎる。何しろ、マニュアルがなければ何もできないんだから」

「自分で考えて判断するってことが、まるっきりできない。でも馬鹿って訳じゃないんだよな」

「そうそう、こんなに分厚いマニュアルを何冊も完璧に覚え、書いている通りに完全に行動する。そんなこと俺たちにはできないものな」

「でも、そのマニュアルを作るのがどんなに大変か……。どんな些細なことでも自分で判断できないから、全てマニュアルに盛り込まなければいけない。考えられる全てのシチュエーションを網羅したマニュアルなんて簡単にできるもんじゃない」

「俺たちなんか、仕事はマニュアル作りだけだもんな」


 そのとき、同僚のオガワが、事務所に飛び込んできて、大声で叫んだ。

「大変だ! 新人のカワイが客先で大失敗したぞ! 何やらライバル社の人間と顔を合わせたときに大失態したそうだ! もううちとは契約しないと言ってきている」

 それを聞いて、隣のオオカワが俺に小声で言った。

「客先でライバル社と会った時のマニュアルって、お前が作ったんじゃなかったか?」

「あ、そうだ! やばい! どうやら、あのマニュアルにまだバグが残っていたみたいだ……」


あとがき
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2006年07月07日

無人島生活

(ここは、完全な無人島だ)

 それが、一日中この島を探索して得た結論だった。乗っていた船が沈没して、気がついた時にはこの島の砂浜で倒れていたのだ。

(何とか生きていけそうだな)

 この島を回って分かったことがある。小さな島なのに、あちこちの泉から真水が湧いている。不思議なことだが、これで飲み水の心配はいらない。木々には果物がたわわに実り、食用になりそうな小動物も多い。魚など手で捕まえられるくらい沢山いる。食物にも困らないだろう。そして危険な野生動物がいる気配もない。

(まさに楽園だな)

 俺は人付き合いができない性格で、こういうひとりでの生活に憧れていた。船に乗ったのも人付き合いの煩わしさから逃げるためだったのだ。
 俺は、この島でのひとりの生活を満喫した。しかし、その幸せも一年しか保たなかった。俺が漂着して一年後、ひとりの女性が砂浜に漂着したのだ。

「ねえ、どこいくの?」
「話をしてよ」
「近くにいてよ。寂しいの」

 その女性は、とにかく俺にまとわりついてきた。煩わしくて仕方ない。まあ、これが孤独が嫌いな普通の人間の反応なのかもしれない。

「もう、俺にまとわりつくな! 島の半分はお前にやる。そこでは何をしてもいい。でも残りの半分は俺の領地だ。絶対に入ってくるな!」

 俺は宣言した。女性もしぶしぶ従った。これで、また平穏な生活に戻れる。行動範囲は半分に減ったが、幸せな日々が帰ってきた。

 一年後、ひとりの男が砂浜に漂着した。結局、島を三分割することになった。

「いいか、この島の所有権は人数で分割する。人の土地には許可なく入ることは禁止する。これが、この島の唯一の法律だ」

 俺は先住者として、そう宣言した。
 それから、二人とも俺の土地には入ってこない。ただ、残りの二人は互いの土地を行き来しているようだ。まあ、それは俺には関係ないことだ。また、平穏な生活に戻ることができた。
 ただ、ひとつ心配なことがある。今は島を三分割している。この面積なら俺も充分自由に暮らせる。しかし、これが四分割、五分割と取り分が少なくなると生活が難しくなっていく。今のところ、一年に一人ずつ漂着してきている。このペースだと五年後には、俺の土地は生活できる面積ではなくなる。

 俺は、神に願った。

「どうか、もうこれ以上、人が漂着して来ませんように」

『わかった。お前の言うとおりにしてやろう』

 気のせいかもしれないが、神がそう言ったような気がした。そして、それからというもの、本当に人が漂着してくることはなくなった。


 五年後、ついに俺の土地が生活できる面積ではなくなってしまった。

「くそ! あいつら! 毎年、毎年、子供を産みやがって!」



あとがき
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2006年06月22日

狼男

 俺は狼男だ。満月の夜になると狼に変身する。そして狼の姿になると、無性に人間を襲いたくなる。今日は満月、俺は山奥の小さな村に向かっていた。
 近くの町では満月の夜に狼が襲ってくると言う噂が広まっているのだ。人間は弱いが、武器を使う。そうなるといくら狼でも勝ち目はない。何の準備もしていない無防備な状態でなければ人間を襲うことができないのだ。そこで、狼の噂がまわってない山奥の村で思う存分人間を襲おうと思ったのだ。
 村まではあと少しだ。狼に変身する日暮れまでには着けるだろう。
 その時ひとりの少年が道の反対から歩いてきた。多分、村の少年だろう。俺はその少年に尋ねた。

「村までは、あとどれくらいだい?」

「あと五時間くらい歩けば着くよ」

 少年が答えた。おかしい、予定ではもうすぐ近くまで来ている筈だ。どこかで道を間違えたのだろうか。

「君、村まで案内してくれないか?」

 そう言うと、少年は「べぇ」と舌を出し、振り返って走っていった。少年は村に帰るに違いない。彼について行けば村に行ける。俺は慌てて少年の後を追った。
 しかし、少年の足は速かった。どんどん引き離されていく。このままでは、少年を見失ってしまう。そう思ったとき、前方にかすかに集落のようなものが見えた。間違いない、目的の村だ。あの少年、五時間もかかるなどと嘘をついたようだ。実際には予定通り近づいていたのだ。
 そのとき、村の方であの少年が大声で叫んでいるのが聞こえた。

『狼がくるぞ!』

 俺は、慌てて自分の姿を確認した。人間のままだ。当然だ、まだ日が暮れていないのだから狼になっている筈がない。あの少年は、どうして俺が狼だとわかったのだろうか。何か不思議な力を持っているのかもしれない。俺の正体がわかったからこそ、村の場所について嘘を言ったのだろう。

「ふう……」

 俺はため息をついた。少年の言葉を聞いて、村の人々は狼退治用に武器を用意しただろう。これでは、村を襲うことはできない。俺はトボトボと引き返した。




 村の人たちは、少年によって救われたことも知らず、口々にこう言った。

「また、あのガキが嘘をついてやがる」



あとがき
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2006年06月20日

おみやげ

「グボッ、ゲホッ、ウ、ゥゥ」

「じいちゃん! どうした? 大丈夫か?」

「グッ…………」

 じいちゃんの顔色がみるみる変わっていった。助けを呼ばなければ。

「誰か来てくれ! じいちゃんが喉に何か詰まらせた!」

 二階に、親父とお袋かいる筈だ。すぐに来てくれる。それまで、俺はじいちゃんの背中を叩き続けた。

「どうしたんだ?」

「大丈夫?」

 親父とお袋がやってきた。

「お前、じいちゃんに何食わせたんだ」

 親父はそう言いながら、じいちゃんの口を大きく開ける。

「おじいちゃんは、食べ物を詰まらせやすいんだから、ちゃんと気をつけてよ」

 お袋は、じいちゃんの口の中に指を入れる。ふたりとも手慣れたものだ。じいちゃんは喉に食べ物を詰まらせやすいので、こういうことがときどきあるのだ。

「取れた!」

 お袋が叫んだ。じいちゃんの顔色が元に戻る。助かったみたいだ。

「じいちゃんい、一体何を食べさせたの?」

 お袋が聞いてくる。

「隣のキムラさんに貰ったおみやげの饅頭だけど……」

「饅頭って、これお餅を使ってるじゃないの。こんなの食べたら詰まらせるに決まっているじゃないの!」

「でも……キムラさんが」

「キムラさんは関係ないでしょ! あなたが、おじいちゃんにこんなもの食べさせたのが悪いの!」

「俺、キムラさんに文句言ってくる。こんな危ない物持ってきて」

「キムラさんは、善意でおみやげをくれただけでしょ! 文句なんて言う筋合いじゃないよ」

「でも、キムラさんが言ったんだよ。だから俺、安心してじいちゃんに食べさせたんだ」

「キムラさんが言ったって……何て?」

「これ、つまらないものですがって」


あとがき
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2006年05月30日

吸血鬼

 俺は吸血鬼だ。とは言っても、普通の人がイメージする吸血鬼とはかなり違う。太陽の光を浴びても平気だし、ニンニクも十字架も怖くない。ただ毎日、人の血を吸わなければならないだけだ。吸血鬼に血を吸われた人も吸血鬼になるというのも迷信だ。血を吸われるのも一瞬で、ほとんどの人は気が付かないほどだ。
 そのため、吸血鬼はごく普通に人間世界の中で暮らしている。人間の友達もいるほどだ。今も友達のサトルが遊びに来ている。

「お前、調子が悪いのか?」

 部屋を見渡した後、サトルが聞いてきた。

「いや、何ともないよ」

「そうか……。妙に部屋が散らかっているから気になったんだよ。あれほど几帳面だったお前の部屋がこんな状態だからな。体調でも崩したのかと思った」

「いや、何だか最近、片付ける気がしなくてな」

「それならいいんだが。あ、例のDVDどこにあるんだ?」

「多分、その辺りにあると思うんだが……」

 俺はテレビの前に山積みになっているDVDを指さして言った。サトルは、新作映画のDVDを借りに来たのだ。

「えーと、これも違う。これも……。あ、あったこれだ!」

「そんな下の方にあったのか」

「本当に大丈夫か? 前に来たときは几帳面に整理していたじゃないか。何か違う人間みたいだぞ」

「そうか?」

「まあいい。じゃあ俺、帰るからな。ちゃんと片付けるんだぞ」

「ああ、分かった」

 サトルが帰って行った。

(違う人間みたいか……)

 まあ、サトルがそう思うのも無理はない。原因もよく分かっている。でも、仕方ないのだ。


 夜になり、俺は外出した。もちろん血を吸うためだ。前方に若い女性が歩いている。

(よし、彼女にしよう!)

 俺は後ろから、そっと近づいた。女性は全く気が付かない。完全に気配を消すことができるのが吸血鬼の特徴だ。そして、首筋から一気に血を吸う。

「うわ!」

 血を吸った瞬間、俺はつい叫んでしまった。

「またB型だ! 最近こればっかりだ!」


あとがき
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2006年05月22日

不老不死

 その王様は、絶大な権力を持っていた。どんなことでも思い通りになると思われるほどに。しかし、どうしても思い通りにならないことがあった。老化と死である。どんなに権力があっても、歳をとりいずれ死んでしまう。王様は、不老不死の方法を探し求めた。
 ある日、夢の中に魔女が出てきて言った。

「千人の人間の生き血で満たした風呂に入ると不老不死になるであろう」

 王様はその言葉を信じた。そして千人の人間を殺し、その生き血で満たされた風呂に入った。
 その直後、王様は原因不明の病で死んでしまった。

 王様は地獄にいた。それも特別残忍な極悪人だけの地獄の中の地獄と言われる場所に。ここに収容された極悪人は二度と生まれ変わることはない。この地獄で永遠の時間を過ごすことになるのだ。

 王様は、ここで念願の不老不死を手に入れたのだ。


あとがき
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2006年05月10日

りんごのない世界

 皆さん、パラレルワールドをご存じですか? 私たちの世界と平行して存在する別の世界、この世界と似ているようで少しだけ違う、そういう世界があるのです。どうやら私は、パラレルワールドに迷い込んだようです。
 数ヶ月前、私は車に跳ねられました。そのとき、一瞬視界が大きく揺らぎました。今から考えるとあのとき別の世界に移動したのだと思います。それから、私は妙な違和感を感じ始めました。
 最初に違和感を感じたのは、入院していた病院でした。友達がフルーツバスケットを持って見舞いに来てくれたのです。そのかごには、バナナ、パイナップル、メロン、桃などが入っていました。そのとき感じたのです。何かが足りない。定番の果物が足りないような気がしたのです。
 それからもたびたび違和感が襲ってきました。

『イブはへびにそそのかされて、イチゴの実を食べてしまいました』
『ウィリアムテルは、息子の頭に乗せた桃を矢で射抜きました』
『ニュートンは、梨が落ちるのを見て万有引力を発見しました』
『白雪姫は毒バナナを食べてしまいました』

 こんな話を読む度に、自分の知っている話と少し違うと感じました。そして確信したのです。パラレルワールドに迷い込んだことを。元の世界にはあった何かが足りない世界に来てしまったと。
 私は必死に足りない何かを探しました。ぼんやりと赤いイメージは浮かぶのですが、それ以上はっきりしません。もどかしくてたまらず、眠れぬ夜が続きました。
 そんなとき、私はまた車に跳ねられました。前回と同じように視界が大きく歪みました。これで元の世界に戻れるかもしれない、これでもどかしさから解放されてゆっくり眠ることが出来る、そう思いました。
 友達が、フルーツバスケットを持って見舞いに来てくれました。そこにあったのです。私を悩ませ続けたあの赤い果物が。これです。あの世界になかった何かは。

「果物持ってきたわよ」

 友達が言いました。そうなのです。果物と言えばこれしかありません。心の中のもやもやが一気に吹き飛びました。あの赤い果物だけが山積になったフルーツバスケットに軽い違和感を感じましたが、そんなこと問題ではありません。これでやっとゆっくり眠ることが出来ます。
 皆さんも気をつけて下さい。知らない間にパラレルワールドに迷い込んでいるかもしれませんから。


あとがき
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2006年04月16日

日本沈没

 私は天上の世界に住む神のひとり。あるとき、最高神が私に向かってこんなことを言い出した。

「この日本という国は本当に腐りきっている。政治家も役人も一般大衆も完全に堕落している。こんな国が存在していると、世界中に悪影響を及ぼすだろう。そうしないためにも、日本を完全に沈めてしまうことに決めた」

 ついに来た、そう思った。確かに日本は腐りきっている。最高神がそう言い出すのも当然だ。しかし、私は日本という国が何故か好きなのだ。私は最高神に言った。

「ちょっと待って下さい。確かに日本は腐っています。しかし、前触れもなくいきなり全滅させるのは非情ではないでしょうか?」

「では、どうすれば良いというのだ?」

「日本という国は、四十七の都道府県に別れています。まず、そのうちのひとつの地区だけを沈めるのです。日本への警告の意味を込めて。それでも悔い改めなかった場合には、全部沈めてしまうことにしましょう」

「無駄だと思うのだが。まあ、お前がそう言うのなら好きにするがよい」

「分かりました」

 これで、日本が助かる可能性がでてきた。沈む地区に住んでいる人には悪いが、これしか方法がないのだ。後は日本人に賭けるしかない。この警告に耳を傾けるかどうか。それによって日本の運命が変わる。
 とにかく、何処を沈めるのか決めなければならない。犠牲になるところを公平に選ぶことにした。四十七の都道府県の名前を書いた紙から一枚を選び取る。

「この県か……」

 多くの人間が犠牲になる。しかし、日本を守るには、こうするしかないのだ。私は心を鬼にして、選んだ県を沈めた。これで、日本人が目覚めてくれれば。許してくれ……滋賀県の人たち……。


 しばらくして、下界の様子を見てみた。日本人が悔い改めているのか確認するために。しかし、日本人たちの行動は、以前と全く変わっていなかった。まるで、何事もなかったかのように。そんな日本人たちが話している会話を聞いて呆然とした。

「あれ? 琵琶湖ってこんなに広かったっけ?」

「うーん。よく分かんないけど、こんなもんだろう?」


あとがき
posted by まえぞう at 17:41| Comment(10) | TrackBack(0) | その他のショートショート