2018年03月04日

Yahooカテゴリサービス終了にともなう一時的公開

 3月29日に「Yahoo!カテゴリ」が終了します。
参照:Yahoo!カテゴリ終了/ひとつの時代の終焉

このサイトも長らく記事を非公開にしていましたが、一応Yahoo!カテゴリ登録サイトのひとつとして、最後を飾るべく、一部の記事を再公開します。

どのくらい公開するのかは未定です。

スマホで見ながら、公開できる話を少しずつピックアップしていく予定です。

にしても、Yahoo!カテゴリサービス終了って寂しいな。
posted by まえぞう at 09:49| Comment(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月21日

行列ができる無人島

 船の甲板で潮風を浴びていると、前方に島影が見えた。あれが目的の島だろう。そう思っていたときに、タイミングよく船内アナウンスが聞こえてきた。
「本船はまもなく目的地に到着いたします。なお、船内は禁煙ですので、喫煙はご遠慮下さい」
 そんなことは言われなくてもわかっている、そう思いながらも、胸ポケットからたばことライターを取り出して確認する。
 これから向かう島は無人島だ。とはいえ、いつも人で溢れかえっている。ただ、住んでいる人がいないという意味で無人島なのだ。私たちにとって楽園のような島。
 港に着くと、乗客は足早に船を降り、すぐにたばこを取り出して火をつけ始めた。もちろん私もたばこを加えた。すでに島に来ていた人たちも全員たばこを吸っている。別名『喫煙島』

 たばこがここまで敬遠されるようになったのはいつからなのだろう? 喫煙可能な場所がどんどん少なくなり、今では人が住んでいる場所から半径50km以内での喫煙が禁止されている。
 それで私も船でこんなところまできた。家族に一言残して……
『ちょっと一服』

あとがき
posted by まえぞう at 18:36| Comment(2) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月13日

皿回し

「お母さん! ユウトが入ったわよ!」

 娘が叫んだ。息子のユウトは、大道芸人をやっている。子供の頃から曲芸の練習に熱心に取り組んでいたのだが、練習に集中しすぎると周りが見えなくなることがある。その状態を私たちは『入った』と表現している。

「早く、片付けて!」

 今、ユウトが練習しているのは皿回しだ。回転力が落ちないよう、先のとがった硬い棒で器用に皿を回す。『入った』状態のユウトは、目に付いた皿、いや皿状のものを手当たり次第回そうとする。誰にも止められない。
 元の状態に戻るまで数時間はかかる。それまで部屋から皿状のものを全て出し、閉じ込めておかなければならない。そうしなければ、部屋中が大変なことになる。

 娘とふたりで、部屋中の皿、灰皿、丸い蓋など、皿状のものを運び出す。

「これで全部?」

「えーと、あ! お母さん! あのお皿!」

 娘の声で気がついた。大事な皿がない。旦那が気に入って買った有名な陶芸家の作品だ。あれを皿回しの練習に使われて、割られたりしては大変だ。
 私はもう一度部屋に入った。ものが散乱し、めちゃくちゃな状態になっている。ユウトは相変わらず『入った』まま、皿を探している。。早くあの皿を運びださないといけない。

「どこにあるの?」

 あまりに部屋が荒れているために、皿が見つからない。早く、早く……。気持ちがあせる。
 あせればあせるほど、見つからない。私はとにかく探した。部屋中をくまなく、それこそ目が皿になるほど……。

(あれ? 何? 目の先に細い棒のようなものが近づいてくる。だんだん、だんだん……)


あとがき
posted by まえぞう at 23:12| Comment(7) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月20日

ボケとツッコミ

「最近、はしかが流行しているそうですね」

「そうそう、水族館で芸をしたり、アゥ、アゥって鳴いたり」

「それは『あしか』だろう!」

「どうもありがとうございました」

 俺とタカシは、学校でよく漫才をしている。僕がボケでタカシがツッコミだ。
 そのタカシが、コンビを解消しようと言い出した。

「何故なんだ? 一緒に漫才師になろうって言っただろう?」

「お前のボケは軽すぎるんだよ。俺がツッコミで何とかカバーしているが、これじゃあ素人のレベルから抜け出せない」

「これから頑張ればいいじゃないか。もう少しレベルの高いボケができるようになるから」

「無理だよ。お前は軽すぎるんだ。まあ、一回体を張るくらいの気持ちで大きなボケをかませば考えてやるんだが。お前には漫才師は無理だ」

「その言葉、忘れるなよ。僕は絶対に漫才師になってやる!!」

 それから、僕は勉強に打ち込んだ。大きなボケをするには、知識が必要だ。大学にも合格した。有名大学の薬学部だ。そこでも僕は一生懸命勉強した。そして、卒業して試験にも合格した。

 僕は、タカシを呼び出した。そして、胸を張って言った。

「ほら見てみろ。約束通り、漫才師になったぞ!」

「…………」

 その言葉にタカシは何も答えることができなかった。僕は本気で怒った。

「馬鹿野郎! 『それは漫才師じゃなくて、薬剤師だ!』ってつっこむところだろう! 僕の一世一代のボケを無駄にしやがって!」


あとがき
posted by まえぞう at 10:55| Comment(4) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月21日

火事とおねしょ

『火事を見るとおねしょをする』

 そういう言い伝えを聞いたことがありますか? 元は子供の火遊びをとがめるために使われたものだと聞いたことがあります。
 実は、これは単なる言い伝えではなく、本当のことなのです。少なくとも僕にとっては事実です。この言い伝えは、過去にも火事を見るとおねしょをするという、僕と同じ体質の人がいたから発生したものだと思っています。

「あなた、またおねしょですか? 本当、いい歳して……」

「仕方ないだろ。そういう体質なんだから」

「それが分かっているのに、何で消防士になったの……」



あとがき
posted by まえぞう at 18:35| Comment(2) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月11日

しゃべる電化製品

『コーヒーができました』

『パンが焼けました』

 コーヒーメーカーとトースターがほぼ同時に話した。最近ではほとんどの家電製品がしゃべるようになっている。昔のような無機質な電子音を聞くことなどなくなった。
 電化製品の声やしゃべり方も本当の人間のようになっている。それだけではない。声質なども細かくチューニングすることができる。自分の好きな声に合わせることができるのだ。普通の人は製品によって声を変え、何がしゃべったのか区別できるようにしている。しかし僕は違う。全部同じ声、アヤの声に合わせている。アヤは一ヶ月前に別れた恋人だ。完全にふられたのだが、まだ忘れることができない。そこで寂しさを紛らわすため、声だけでも聞きたいと、電化製品の声を全部アヤの声にしたのだ。
 しかし、最近はこの声が気に障るようになってきた。何しろ、電化製品が多すぎて、一日中同じ声を聞いているのだ。それを一ヶ月も続けるといらつくこともある。

『洗濯が終わりました』

 ゆっくり朝食を摂ろうと思ったとたんにこれだ。

『録画を開始します』

『9時になりました』

『自動清掃を開始します』

 立て続けにアヤの声がする。だんだんいらついてくる。

『音楽を再生します』

『食器の乾燥が終わりました』

 今日はいつも以上に声が続く。本気でいらいらしてきた。

『電話です』

 まただ。とにかく電話をとる。

「もしもし、私……アヤ。もう一度やり直せない?」

 また同じ声。本気で腹が立ち大声で叫んだ。

「もう嫌だ! 聞きたくない!」

『電話が切れました』

 決めた。今日中に声を全部変えてやる!



あとがき
posted by まえぞう at 17:46| Comment(2) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月07日

分子の話

「お父さん。分子ってなぁに?」

 息子が聞いてきた。そういうことに興味を持つ年頃になったと思うと、父親として嬉しい。それに私は化学者だ。自分の専門分野に子供が興味を示したということで、特別感慨深い。

「まわりを見渡してごらん。色んな物質……モノがあるだろう? これらはみんな分子という眼に見えない小さなものからできているんだ。分子は原子というものがいくつか繋がってできているんだけど、この分子がそのモノの性質を示す最小単位……一番小さいものなんだ」

 小学生用に分かりやすく説明したいという気持ちと、化学者としての正確に説明したいという思いが交錯して、どのように説明すべきか迷ってしまう。

「とにかく、全部分子からできているんだ。いや、全部といっては語弊があるけど、共有結合という方法で結合しているものは全部分子と言ってもいい」

 だんだん話に熱が入ってきた。何を言っているのか自分でも分からなくなる。

「例えば、コップ一杯の水があるだろう? あの中には、水分子が10の24乗って言っても分からないか……一億の一億倍の……とにかく沢山の水分子が入っている。分子っていうのはそれほど小さいんだ。分子の形ってのも面白くて、水の分子はブーメランみたいな形をして………………(中略)………………それほど分子って大事なものなんだ。わかったか?」

 息子はきょとんとした顔をしている。ちょっと小学生には難しすぎる説明になってしまった。ここで理解できなかったせいで化学に興味を失ってしまったりしないだろうか? そんなことを考えていると、息子がまた聞いてきた。

「じゃあ、分母ってなぁに?」


あとがき
posted by まえぞう at 19:45| Comment(6) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月31日

番犬

うちの犬は、よく吠える。見知らぬ人が家に近づくと、大きな声で吠えまくるのだ。番犬としては優秀といってよいだろう。今のところ番犬が必要なほどの財産はないのだが、そのうち大もうけして金持ちになってやろうと全力で頑張っているところだ。それを達成したときには、心強い味方になってくれるだろう。
 最近気がついたのだが、うちの犬が吠えるのは人間相手だけではないようだ。時々誰もいないのに、まるで人がいるように吠えまくることがある。どうやら、眼に見えない相手に向かって吠えているようだ。多分、悪霊などを追い払ってくれているのだろう。本当に頼もしい奴だ。

「ワン! ワン! ワン! ワン!」

 また何かに向かって吠えている。

「ワン! ワン! ワン! ワン!」

 周りに人かげはない。また眼に見えない悪霊にでも吠えているのだろう。

「ワン! ワン! ……………」

 静かになった。どうやら追い払ってくれたようだ。
 こうやって、俺を助けてくれている。後は俺が頑張って金持ちになるだけだ。



「まいったな。せっかくこの家に住み着こうと思ったんだが。あんな犬がいてはどうしようもない……」

 福の神がぽつりと呟いた。
あとがき
posted by まえぞう at 17:53| Comment(6) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月26日

バイオエタノール

「おめぇよぉ、ばいおえたのぉるって、知ってっか? バイオエタノールだよ。け! やっぱりしらねぇか。こいつぁすげぇんだぜ。なんでも、植物からできるってんで、えーと地球……温暖化って奴を防げるっつぅもんだ。わかるか? 地球温暖化だぜ。環境問題だぜ。すげぇだろ? そんでもっておいらも環境問題に目覚めたって訳よ。で、バイオエタノールの普及に一役買ったって寸法よ。おめぇもよぉ、少しは環境問題くれぇ考えたらどうなんだ」

「あんた! それが酔っ払って帰ってきた言い訳のつもり?」あとがき
posted by まえぞう at 10:44| Comment(4) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月16日

強運の持ち主

 私は、凄く運がいい。世界一の強運の持ち主と言ってもいいだろう。マークシートのテストなら、適当にマークするだけで全問正解は間違いない。他のテストでも強運を発揮する。数学なら適当に数字を書けば正解になるし、他の科目でも適当に言葉を並べれば大抵正解する。
 パソコンを使うようになって、気付いたことがある。何も考えずに適当にキーボードを叩けば、運良く意味の通る文章になるのだ。それで、私はブログを始めた。
 内容なんて考えてもいない。目をつむってキーボードを叩くだけだ。それを読み返しもせずブログに投稿する。それでも、ちゃんと意味のある文章になっている筈だからだ。そして、記事数も400を超えた。
 しかし、最近不安に思い始めた。私の強運はいつまで続くのだろう。人の持っている運の量は同じだと聞いたことあるか。キーボドたたくたけて意味なるような今日運がいつまでもも続く分け気言う孔かいうぽいうはいおfhんldまおうrbふぃうyは*ま3kdh


あとがき
posted by まえぞう at 11:28| Comment(4) | TrackBack(1) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月03日

日本語変換ソフト

究極の日本語変換ソフト誕生

 わが社では、究極とも言える新日本語変換ソフト『へんかん君』の開発に成功した。文脈を完全に解析し文章の意味まで理解できる『意味読み込みエンジン』を搭載したことにより、誤変換の解消が可能となった。『意味読み込みエンジン』では、文章の意味だけでなく、言葉の表現から、ビジネス文書、プライベートの文書などの文書の種類や、入力している人の年齢、性別などを瞬時に把握できる。これらの情報から、変換ワードを的確に推測できることから、誤変換が全くない、完全な日本語変換ソフトが完成した。
 これまで、入力の妨げになっていた誤変換がなくなることにより、入力効率が格段に進歩し、日本語入力の新しい時代に突入する。
 画期的な日本語変換ソフト『へんかん君』、いよいよ来月から全国一斉に半場医科医師!!


あとがき
posted by まえぞう at 10:44| Comment(8) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月26日

ら抜き言葉

「ただいま」

「あ、あなた、お帰りなさい。思ったより早かったわね」

「せっかくの飲みなのに、なんだか面白くなくて抜けてきた」

「珍しいわね。あなたでもそんなことがあるのね」

「まあな。それより何か食い物ないか? 少しお腹が空いて」

「ごめんなさい。今日は何も残ってないの」

「そうか、残念だな。帰れば何か食べれると思ったのに……」

「え! 今あなた『食べれる』って言わなかった?」

「ああ、言ったよ」

「あなた、いつも言っているじゃないの。ら抜き言葉なんて日本語じゃないって。そのあなたが『食べられる』じゃなくて『食べれる』って言うなんて」

「考えを変えたんだよ。言葉なんて時代によって変わるのが当たり前だってね。最近はかなり許容されてきているみたいだし、そのうちこの表現が普通になるのかもしれないと思って。逆に時代を先取りしているような気分で、敢えて使っているんだよ。でも、いざ使おうと思うと難しいもんだね」

「そうかしら。そんなに難しいとは思わないけど」

「いやー、凄く難しい」

「あなたにとっては、そうかもしれないわね」

「それより、本当にはがへったな。そうだ、確かここ辺にカステがあった筈だ。くくて見えないな。イトを点けてっと。あれ? お前しないか?」


あとがき
posted by まえぞう at 18:06| Comment(6) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月14日

将来予想図

 私のマンションの前で、彼はバイクを止めた。辺りはすでに真っ暗になっている。私は、後部シートから降りて、ヘルメットをはずした。

「ありがとう」

 バイクにまたがったままの彼に言う。それを聞いて、彼は軽く手を振った。そして、バイクのブレーキランプが点滅する。一回、二回、三回。これがいつものサインだ。点滅は続く。四回、五回、六回、七回…………。
 誰も知らないふたりだけの合図。
その意味は

『ダレヨリモイチバンアイシテイル。コレカラモズット。キミガイナイトボクハイキテイケナイ。ホントウニスキダ。セカイジュウノダレヨリモ…………』

 幸せを感じることができる一時間……


あとがき
posted by まえぞう at 07:36| Comment(4) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月03日

禁煙国家

「我が国の喫煙率は、5%程度で横ばい状態を続けております」

「まだ、5%もいるのか。喫煙率を1%以下に抑えて、禁煙国家宣言をするにはまだ時間がかかりそうだな」

「はい、残りの5%がとにかくしつこいのです。どんな手を打ってもタバコを吸うことを止めません。いっそのこと法律で禁止してはどうでしょうか?」

「それは駄目だ。法で規制するのではなく、国民が自分の意思でタバコを止める、それが禁煙国家の理想的な姿なのだ」

「では、禁煙をした国民に何か褒美を与えることにしてはどうでしょうか?」

「高額な税金を課し、喫煙可能箇所を激減し、タバコを吸う人間が白い眼で見られるように世論を操作した。5%の人間は、それでも喫煙を止めない頑固者だ。褒美くらいで、止めるわけがない」

「しかし、他に方法が……。禁煙したら一生遊んで暮らせるほどの褒美を与えれば止めるのでしょうが、そんな訳にはいかないし」

「一生遊んで暮らせるほどの褒美――それだ! その手で行こう」

「しかし、そんなことをしたら非喫煙者から凄い非難を浴びることになります」

「確かにそうだろう。しかし、我が国は禁煙国家になることを、国際的に約束しているのだ。その期限はせまっている。何とかしないと国際的な信用を失うことになる。その方が大問題だ。禁煙したものに、一生遊んで暮らせるだけの賞金を出す、これしか方法がない」

 そして、禁煙者賞金法が施行された。


〔ある家庭での会話〕

「あなた、何してるの! あなたも早くタバコを吸い始めなさいよ!」

 タバコを片手にした奥さんが叫ぶ。

「タバコ? 何でタバコなんか吸わなければならないんだ?」

「当たり前でしょ! タバコを吸い始めなければ禁煙できないじゃないの! ご近所もみんな吸い始めてるわよ!」

 こうして日本は国際的な信用を失った。


あとがき
posted by まえぞう at 17:41| Comment(4) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月20日

借り物競走

 運動会の借り物競争が始まった。僕は走るのが得意だ。当然のように一番最初にテーブルに到着して封筒を取り、中の紙を見る。

『自分のお父さん』

 それを見て、思わずガッツポーズをしてしまった。お父さんはすぐ横で僕のことを見ている。これで、一等賞間違いなしだ。
 僕は、紙を見せながらお父さんに近寄った。そして、お父さんの手を引張って走り出そうとした。でも、お父さんは動かない。

「どうしたの? 早く来てよ」

 そういうとお父さんは、下を向いた。そのとき、横にいたお母さんが言った。

「実は、この人はあなたの本当のお父さんじゃないの」

 何のことかよくわからなかったけど、早くしなければ一等賞を採れない。僕は叫んだ。

「じゃあ、僕の本当のお父さんはどこにいるの?」

「あなたの本当のお父さんは、隣のおじさんよ」

 それは大変だ。おじさんは運動会に来ていない。僕は慌てて家に向かって走り出した。そして、隣の家に行っておじさんを連れてきた。急いで学校に戻ったときには、競技は終了していた。当然、僕はビリだった。

 運動会が終わった。僕のいる赤組は一点差で白組に負けた。僕が借り物競争でビリになったせいだ。
 あのお父さんが本当のお父さんだったら……、そしたら白組に勝っていたのに。そう思うと悔しくて仕方なかった。


あとがき
posted by まえぞう at 06:54| Comment(9) | TrackBack(1) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月14日

色変換

 ある日、突然、赤と青が入れ替わった。
 赤いものが青く見え、青いものが赤く見えるようになったのだ。全ての人間が、一斉に同じ現象に見舞われ、世界中が混乱した。
 自動販売機で飲み物を買うときにHOTとICEを間違えたり、広島カープ対中日ドラゴンズの試合でチームを間違えたり、動脈と静脈の血液を間違えたり、赤面している人と顔面蒼白な人を間違えたり、とにかく多くの問題が発生した。中でも深刻だったのが、信号である。赤と青を間違えることによる事故が多発したのだ。
 これまで赤だったものを青に変えて赤く見えるようにし、青だったものを赤に変えて青く見えるようにしようという案も出たが、膨大な費用がかかるため見送られた。
 結局、人々は赤く見えるものは青、青く見えるものは赤、と頭の中で置換しながら生活することになった。人間の適応力というのは大したもので、一年もするとその状態に慣れ、混乱は収まった。

 そして、突然、黄色と緑が入れ替わった。黄色いものが緑色に見え、緑色のものが黄色く見えるようになったのだ。すでに、馴れていたこともあり、赤と青の時ほどの大混乱はなかった。人々は黄色と緑を置換することにすぐに適応した。

 突然、紫とオレンジ色が入れ替わった。当然、人々はすぐに適応した。
 突然、白と黒が入れ替わった。当然、人々はすぐに適応した。

 そして、突然、赤と黄色が入れ替わった。昔の感覚で青く見える赤と、緑に見える黄色が変換されたため、昔の感覚で青に見えるものが黄色で、緑に見えるものが赤となったのだ。さすがに、ややこしく、多少の混乱があったものの、人々は適応していった。

 突然、オレンジ色と青が入れ替わった。
 突然、白と緑が入れ替わった。
 それからも、度々色の変換が起こったが、混乱もなく順応していった。
 もう色による混乱は起こらないものと誰もが思っていた。

 ある日、世界中が大混乱に陥った。
 突然、全ての色が元に戻ってしまったのだ。


あとがき
posted by まえぞう at 17:56| Comment(6) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月06日

占い嫌い

 朝出勤して更衣室に入ると、同僚のOLたちがなにやら騒いでいた。

「見て! 今日素晴らしい出会いがあるでしょうだって!」

 そんな言葉が聞こえてきた。どうやら占いの話をしているようだ。その中のひとりアカネが私に近づいてきて言った。

「マキのことも占ってあげましょうか?」

「遠慮しておくわ」

 私は素っ気なく言った。しかしアカネは引き下らない。

「この携帯サイトの占いよく当たるのよ。名前を入力するだけで今日の運勢がわかるの。簡単だからマキも占ってあげる」

「だから、占わなくていいって言ってるでしょ!」

 つい口調が荒くなった。

「もしかしてマキ、占いが嫌いなの?」

「そう、嫌いなの」

 嫌いというレベルではない。私は占いを激しく嫌悪しているのだ。昔、両親が占い師の言葉を信じて事業に失敗した。それから占いを憎むようになった。雑誌などの占いコーナーも見ないだけでなく、ページごと破り捨てるほどだ。

「やっぱり占ってみようよ。本当に当たるんだから。マキの占い嫌いも直るかもしれないよ」

「だから、嫌だって言ってるでしょ!」

 思わず大声で叫んでしまった。するとアカネは眼に涙を浮かべ、絞り出すように声を出した。。

「……そんな言い方しなくてもいいじゃない……」

 その光景を見ていた同僚たちが集まってきた。彼女たちは一様に私に批難の眼差しを向けている。まずい状況だ。これは腹をくくるしかない。慌ててアカネに言った。

「アカネごめんね。あんな言い方して。いいわよ私のこと占っても」

 そう言うと、アカネは涙を浮かべたまま私の眼をじっと見て言った。

「分かった……許してあげる。でも、もうサイトを閉じちゃった。マキ、自分の携帯で見てよ。教えてあげるから」

「う、うん」

 私は携帯を取り出し、アカネの言うとおりに操作した。そして、目的の占いサイトに辿り着いた。
 入力欄に自分の名前を入力して、『占う』と書いてあるボタンを押した。画面が切り替わる瞬間、思わず眼をつぶってしまった。やはり、占いなど見たくない。しかし、この状況では、そうも言ってられない。
 ゆっくりと眼を開き、画面に表示されている『今日のあなたの運勢』を見た。そして、そこに書いてある文章を恐る恐る口にした。

「今日、あなたは自分の意に反したことを無理矢理させられそうです。気をつけましょう」

あとがき
posted by まえぞう at 18:58| Comment(6) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月12日

幽体離脱

 僕が、その霊能力者を知ったのは、一年前だ。彼は、人間を幽体離脱させることができるというのだ。僕はそれを聞いて、昔の夢を思い出した。透明人間になってみたい、そう思っていたことを。理由は……男なら誰しも考えるようなことだ。
 幽体は、人からは見えない。透明人間のようなものだ。おまけに、どこでも好きなところにすぐ行ける、そして壁もすり抜けることができる。透明人間よりも自由なのだ。
 ただ、その霊能力者に幽体離脱を頼むには、沢山のお金が必要なのだ。俺はこの一年間、節約生活を続け、何とかその金を貯めることができた。

「お願いします。このお金で僕を幽体離脱させて下さい」

 僕が頼むと霊能力者は、大きく頷いた。そして、説明を始めた。

「今から、君を幽体離脱させよう。ただ、離脱できる時間は一時間だけだ。その前に自分の体に戻らなければ、死んでしまう。それと、当然のことだが、離脱できるのは君の体だけだ。服などの身につけているものは、肉体の方に残ったままだ」

 僕は、納得した。一時間あれば充分だ。そして、体だけが離脱することも承知している。幽体になった自分は裸だということだが、どうせ人には見えないのだ。そんなこと、透明人間になりたいと思った頃からわかっている。

「それでは、幽体離脱を開始する。そこのベッドに横になりなさい」

 僕は、言われたとおりにした。霊能力者は、何やら呪文のようなものを唱えている。わくわくしてきた。幽体離脱できたら、まずどこに行こうか? やはり女風呂かな? そう思うとついにやけてしまう。

「えい!」

 霊能力者が大きな声で気合いを入れた。その瞬間、体がふわっと浮いたような気がした。そして、僕の意識はだんだん肉体から離れていった。幽体離脱できたのだ。僕は天井まで登り、下を見た。多分、あれが僕の肉体なんだろうなと思って、ぼんやりとしたかたまりを見つめた。
 離脱できるのは体だけ、身につけているものは肉体に残ったまま、霊能力者の言葉が頭をよぎる。そういうことか、やっと気付いた。僕は極度の近視で眼鏡がないと殆ど何も見えないのだ。

 せっかく一年間貯めた金で、幽体離脱したのだ。何としても有効に使わなければ。でも、何をすればいいのだろう? 一生懸命考える。その間に、着々と時間が過ぎていく……。

あとがき
posted by まえぞう at 20:31| Comment(4) | TrackBack(1) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月01日

本物のショートショートを読みたい方へ

 ショートショートと言えば、やはり故星新一先生です。もし、星新一先生の著作を読んだことがない方で、私の話を読んでショートショートに興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、是非読んで見て下さい。
 星先生は、日本におけるショートショートの第一人者という言葉で表すには物足りない方です。日本にショートショートという分野を定着された人で、その後に続く第二、第三のショートショート作家と言える人は、まだ現れていないほどです。
 
 今、星先生の作品を読むのなら、「星新一ショートショートセレクション」がお薦めです。
















posted by まえぞう at 00:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする