まえぞうのショートショートへようこそ。全部読み切りで、短い時間で読める小説です。ラジオドラマにも採用されています。少しの間、楽しんでいって下さい。

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2008年03月29日

はぐれそうな天使

 天使の一団が地球を離れようとしていた。

「この星の人間たちは、本当に酷かったな」

「ああ、神の意思を完全に無視して、やりたい放題だ」

「何とか、この愚かな人間たちを導いてやろうとしたけど、無理だった」

「今まで、色んな知的生命体をみてきたが、ここまで残酷な奴らはいなかった」

「新しく知的人類が誕生したという星に早く移ろう」

「そうだ! こんな星放っておいて、新しい人類を導こう」

 天使の中のひとりだけが、浮かない顔をしていた。まわりの天使に理由を聞かれ、戸惑いながらポツリと言った。

「そんなに酷い人間かな? 僕にはそんなに残酷には思えないんだけど……」

「何言ってるんだ。他の生物を次々殺し、同じ人間同士でも殺しあう。そんな奴らだぞ」

「でも……それは仕方なくやっただけで、本質はいい人たちだと思うんだけど」

「じゃあ、君だけここに残るか?」

「どうしよう……。そうだ、僕はもう一度この星の人間を観察してくる。そして、思ったよりいい人たちなら、ここに残る。本当に残酷な人たちならみんなと一緒に次の星に行く」

「お前、本当に物好きだな」

「じゃあ、僕はもう一度地球を見てくるから、みんなは先に行ってて」

「わかったよ。早くしろよ」


『次のニュースです。先日捕獲された人間に似た羽の生えた動物ですが、解剖の結果、地球上の他の生命体とは構造が大きく異なっていることが判明しました。専門家の間では、早くも白熱した議論が……』



あとがき
posted by まえぞう at 16:42| Comment(6) | TrackBack(0) | SFっぽいショートショート

2008年03月11日

潜伏期間

 それは、いきなりの出来事だった。宇宙人から通信があったのだ。

「地球の皆さん、すみません。地球を探査するときに、間違って凶悪なウィルスを漏らしてしまいました。感染力が非常に強いウィルスで、すでに地球人全員に感染してしまいました」

「しかし、地球上でそのような病気の報告はまだありません」

「それが、このウィルスが凶悪な原因でもあります。発症までの潜伏期間が長いのです。そのため、知らない間に多くの人間に感染してしまうという特徴があります。そして、潜伏期間を過ぎて発症すると、間違いなく死んでしまうのです。このような事態にしてしまって本当に申し訳ありません。現在、治療法はないのですが、急いで治療法を確立します」

 地球は大パニックになった。
 宇宙からもたらされた凶悪なウィルス。地球全滅の危機だ。
 しかし、結局何も起こらないまま時間が過ぎていった。
 二十年後、忘れかけた頃にまた宇宙人から通信が入った。

「すみません。全精力を傾けて治療法を探していますがまだ見つかりません。もうしばらく待って下さい」

 どうやら、二十年はまだ潜伏期間だったようだ。いつ発症するかわからない。また、地球は大パニックになった。
 しかし、結局何も起こらないまま時間が過ぎていった。
 百年後、また宇宙人から通信が入った。

「すみません。まだ治療法が確立できていません。でも大至急治療法をみつけます」

 地球の代表が答えた。

「ウィルスとは言いますが、我々地球人には何の被害も出ていません。あなた方の通信のたびに我々はパニックに陥りました。もう、こんなイタズラは止めて下さい」

「イタズラではありません。ウィルスは本当に広がっているのです。我々は急いで治療法を見つけるよう本当に努力しているのです。でも、こんな短期間では、まだ……」

 短期間? 百年が短期間だと? 地球の代表は一瞬怒りかけたのだが、あることに気づいた。もしかしたら……

「あのー、このウィルスの潜伏期間とは一体どのくらいなのですか?」

「地球時間で言うと……三千年くらいです」


あとがき
posted by まえぞう at 20:14| Comment(6) | TrackBack(0) | SFっぽいショートショート

2008年03月06日

片道タイムマシン

「よし、片道タイムマシンの完成だ!」

「博士、凄いですね。タイムマシンを発明するなんて。これで過去にも未来にも自由に行けるんですね」

「何言ってるんだ? 過去に行けるわけがないじゃないか。過去に行って自分の母親を殺したらどうなる? ちょっと考えればわかるだろう? そんなパラドックスが起こらないように宇宙はできているんだ」

「じゃあ、このタイムマシンは?」

「過去には行けない。未来だけだ。だから片道タイムマシンと呼んでいるんだ。相対性理論からも明らかなように、未来に行くことは可能なんだ。何のパラドックスも起きない。この装置は一瞬にして、設定した未来に行けるというものだ」

「じゃあ、その装置で未来に行っても、戻ってくることはできないんですね。それじゃあ意味ないじゃないですか。未来でどんな株が上がるか、競馬でどの馬が勝つか、それを見ても戻ってこれないんじゃ……」

「全く、君って人間は、どうしてそんなに下衆なことしか考えられないんだ。純粋に未来を見てみたいという知的好奇心が沸かないのか?」

「未来は見てみたいですが、戻ってこれないんですよ」

「いいじゃないか。君は今の時代に何か未練があるのか? 私はこの時代には未練はない。戻って来ることができなくても未来をみたい。君も一緒にみてみないか」

「うーん、まあ僕も今にあまり未練はないし……。わかりました、お付き合いしますよ。一緒に未来に行きましょう」

「では、早速旅立とう。まずは五年後の世界だ」

 博士と助手のふたりはタイムマシンに乗り込み、ダイヤルを五年後にセットして、スタートボタンを押した。

「もう着いたぞ。五年後の世界だ。ちょっと外の様子をみてみよう」

 本当にあっという間だった。ふたりはタイムマシンを降りて、町にでた。

「博士。あまり変わってないですね」

「まあ、五年だからな。それほど大きな変化はないようだな」

 そのとき、ひとりの男が博士に声をかけた。

「もしかしたら、片道タイムマシンを発明された博士じゃないですか?」

「そうだが……何か?」

「やっぱりそうだったんですね。あの素晴らしい理論と設計図、今では博士を知らない人などいませんよ。片道タイムマシンも量産され始めて、すでに未来に旅立った人もいるくらいです」

「そうか。私も有名人になったのか」

 自分が有名になり、博士はご満悦のようだ。

「さあ、もっと未来に行ってみよう! 次はこの十年後だ」

 博士と助手は、もう一度タイムマシンに乗り込み、スタートボタンを押した。そして、十年後の様子を見ようと町に出た。

「博士、何だか人が少ないですね」

「そうだな、妙に人が少ない。何があったんだろう?」

 博士は、通りかかった男に聞いた。

「何故、こんなに人が少ないのですか?」

「片道タイムマシンってやつが出回って、沢山の人間が未来にいったからな。この時代に残っている人間は少ないんだ」

「そうですか」

 自分の発明が多くの人に利用されたことを知り、博士はご満悦のようだ。

「さあ、もっと未来に行ってみよう! また十年後だ」

 博士と助手は、もう一度タイムマシンに乗り込み、スタートボタンを押した。そして、十年後の様子を見ようと町に出た。

「ぜんぜん人がいませんね」

「そうだな」

 ふたりは長い間歩き回って、やっとひとりの男を見つけた。

「どうして、人がいないんですか?」

「ああ、みんな未来に行ってしまって、この時代に残っているのは俺みたいな変わり者だけさ」

 ますます、自分の発明が利用されていったことを知って、博士はご満悦だった。

「さあ、もっと未来に行ってみよう! また十年後だ」

 博士と助手は、もう一度タイムマシンに乗り込み、スタートボタンを押した。そして、十年後の様子を見ようと町に出た。

「人はいませんね。それに町も荒廃している」

「そうだな、完全にゴーストタウンだ」

 ふたりはかなり探し回ったが、この時代で人を見つけることはできなかった。
 全人類が自分の発明品を使ったことを知り、博士はご満悦だった。

「さあ、もっと未来に行ってみよう! また十年後だ」

 博士と助手は、もう一度タイムマシンに乗り込み、スタートボタンを押した。そして、十年後の様子を見ようと町に出た。

「完全に荒れ放題ですね。もはや人が住むことすらできない」

「探すまでもないな。この時代にも人はいない」

「さあ、もっと未来に行ってみよう! また十年後だ」

 博士と助手はそれからも、未来への旅行を繰り返した。しかし、どの時代にも人は見当たらず、町は荒れていく一方だった。

「博士、どうします? まだ未来に行きますか?」

「当たり前だろ。この時代にいても、建物は崩壊しているし食べ物もない。他に人がいない。生きていくことすらできない。どんどん未来に行って、人のいる時代にたどり着かないと」

 それからも、ふたりは何度も未来に進んだ。しかし、全く人はいない。

「一体、みんなどの未来にいるのだろう? 片道タイムマシンを使った人ばかりの時代に行けば、私は大歓迎されるはずなのに。いつになったらその時代にたどり着けるのだろうか? とにかくもっと未来に行ってみよう」

 助手の男がふと思った。

(片道タイムマシンを使った世界中の人たちも、僕たちと同じなのかもしれない。人がいる時代を探してずっと未来に進み続けているのかも。全員がそうしているとしたら……)

 でも助手は何も言わなかった。未来で人々の賞賛を受けることで頭が一杯の博士を落胆させたくなかったのだ。それに、このまま人のいない時代にいても死がが待っているだけだ。駄目でも未来に行くしか選択肢はない。

「さあ、もっと未来に行ってみよう! また十年後だ」

 博士が意気揚々と言った。



あとがき
posted by まえぞう at 21:05| Comment(6) | TrackBack(0) | SFっぽいショートショート

2007年12月11日

リセットスイッチ

 あなたは、過去に戻って人生をもう一度やり直したいと思ったことはありませんか? ゲームのように人生にもリセットボタンがあったらいいと。実は、人間にもちゃんとリセットボタンがあるのです。
 私は東洋医学を中心に、人体の研究をしていました。そのとき、発見したのです。リセットボタン、そしてセーブボタンに相当するツボがあることを。リセットのツボを押すと
、前回セーブしたところから人生をやり直すことができるのです。右の脇腹にリセットのツボ、左の脇腹にセーブのツボがあります。でもこのことは誰にも話していません。私だけの秘密です。

 私は、人生を謳歌している。好きなときに好きなことを好きなだけできる、そんな生活をしているのだ。それもこれもリセットボタンのお陰だ。失敗したら、いつでもやり直すことができる。金に困ることもない。ギャンブルだろうが株だろうが、思い通りに儲けることができるのだ。

 昨夜も朝まで遊びまくった。眼が覚めたときはもう夕方だ。取り敢えず、ネットでニュースを見てみる。その中に気になるニュースがあった。

『競馬で史上最高額の超万馬券的中!!』

 正直、金が欲しい訳ではない。ただ、史上最高という言葉が気になる。史上最高の超万馬券を当てた、これは私の人生の輝かしい1ページ飾るのに相応しい出来事のような気がしたのだ。

(前回セーブしたのは、二日前か。その間に特別なできごとが起きたわけではないな)

 私はリセットボタンを押して、超万馬券を当てることに決めた。


「うぉー、爽快な気分だ」

 私は自宅に戻ってシャワーを浴びながら、思わず叫んでしまった。そう、超万馬券を当ててきたのだ。まわりの人間の羨む眼が自分に集中する。これが生きている醍醐味を味わえる最高の瞬間なのだ。

「ガタン」

 部屋で何か物音がした。そう思った瞬間、バスルームのドアが勢いよく開けられた。そこには、見知らぬ中年男が立っていた。包丁を手にして。

(やばい!)

 多分、競馬場からつけてきたのだろう。俺が超万馬券を当てたのを見て、奪い取るつもりだ。俺は目立ち過ぎたのかもしれない。

(早くリセットボタンを……)

 しかし、男はその隙を与えてくれなかった。一瞬のためらいもなく、私の胸を包丁で突き刺したのだ。凄い勢いで血が噴き出す。体中の感覚がなくなり、意識が朦朧とする。気がつくと男の姿はなかった。家捜しでもしているのだろう。

(何とかリセットボタンを押さなければ……)

 このままでは、間違いなく死ぬ。しかし、手は全く動かない。私は壁を背もたれの様にして、座り込んでいる。しかし、背中にも尻にも足にも全くその感触はない。目の前にある大きな鏡を見て、自分の体勢が確認できるだけだ。
 私は、その鏡を見て気がついた。右の脇腹付近に、蛇口がある。手は使えなくても、この蛇口でリセットボタンを押すことはできないか! 何とか体を動かしてみる。自分では動いた感覚はない。しかし、鏡を見ると少しずつ蛇口に近づいている。

(いいぞ、もう少しだ)

 普段は、皮膚に触れた感触でツボの位置を探り当てている。しかし、今の私には感覚がない。鏡を見て、位置を合わせるしかない。難しいことは分かっているが、それしか方法がないのだ。
 私はとにかくもがいた。死にものぐるいでもがいた。鏡をみると、蛇口が脇腹に触れていた。少しツボの位置とはずれている様な気がするが、とにかく蛇口に触れている。もう少しだ。薄れゆく意識の中で、最後の力を振り絞って体を動かそうとする。

『カチッ』

 頭の中で、スイッチが入った感触。どうやら上手くいったようだ。

(…………)

 しかし、状況は何一つ変わらなかった。おかしい。確かにリセットスイッチを押したはずなのに。
 そのとき気付いた。私は鏡を見ながらスイッチを押した。だが、鏡では左右が逆になるのだ。今押したのは、右脇腹のリセットスイッチではなく、左脇腹のセーブスイッチだったのだ。そんなことも分からないほど意識が朦朧としていた。

 薄れかけていく視覚がもう一度鏡を捉えた。反対の脇腹の近くにタオル掛けがある! これでリセットスイッチを押すのだ。私は、もう一度死にものぐるいでもがいた。意識は薄れ、もうそのことしか考えることができない。リセットスイッチを押すのだ……リセットスイッチを……。


あとがき
posted by まえぞう at 17:37| Comment(6) | TrackBack(0) | SFっぽいショートショート

2007年11月26日

バイオハザード

 大きな地震が、その研究施設をおそった。

「大丈夫か!」

「何か異常がないか、すぐに点検しろ!」

 施設内に大きな声が響く。所員が慌てるのも無理はない。ここは、遺伝子操作の研究施設なのだ。遺伝子操作によって生み出された、有害な細菌などを多く扱っている。それらが、施設外に漏れることがあると大変なことになる。いわゆるバイオハザードだ。

「ナンバー6ラボの壁に亀裂が入っています!」

「何? で、漏洩物は?」

「BO17E2が、漏れ出した可能性があります!」

「何だと……、そんな……」

 危惧していたバイオハザードが発生してしまったのだ。BO17E2は遺伝子操作によって産み出された感染力が非常に強い細菌だ。薬品に対する耐性も強く、治療薬は全くない。そんな細菌が、束縛から解き放たれたのだ。

 BO17E2は、瞬く間に全世界に広がった。そして、全人類が発症してしまった。絶対に治ることのない不治の病を。

「くそ! 痒い! 何とかならないのか!」

「うるさい! 痒いのは、お前だけじゃないんだぞ! みんな我慢しているんだ!」

「そんなこと言ったって、これは我慢できない!」

BO17E2――強力な感染力と薬耐性を持つ白癬菌。このときから、人類は水虫を抱えたまま生きていくことを余儀なくされた。



あとがき
posted by まえぞう at 18:16| Comment(13) | TrackBack(0) | SFっぽいショートショート

2007年11月10日

双子のパラドックス

「何! HKR27を双子のパラドックスの証明に使うだと! 何を馬鹿なことを言ってるんだ! 最新のロケットをそんな意味のないことに使うだなんて」

「HKR27は、光の速さの99.5%の速度まで加速、運行し、同じ速度で戻ってくることができます。この場合、往復して帰ってくるHKR27の船内の時間は、地球上での経過時間の10分の1になります。一般相対性理論からの帰結です。パラドックスでも何でもない。そして、それが正しいという証拠は山ほどあります」

「ああ、そんなことは常識だ。だから意味がないと言っているんだ。前回のHKR26に積んだ原子時計の進み方でも完全に証明された筈だ」

「そうです。常識です……物理学者の間では。でも、一般の人の意識はどうでしょう。もうすぐ亜光速運航の時代が始まります。しかし、人々の意識は昔のままなのです。我々がいくら証拠をだしても、原子時計の遅れを示しても、人々の意識はかわりません。イメージが湧かないのです。このまま亜光速運航が始まったら、人々は戸惑い大混乱が起きるでしょう」

「それで、双子を使う訳か……」

「そうです。双子のひとりをHKR27に乗せます。もうひとりは地球で暮らします。地球の時間で10年後に、HKR27が地球に戻るのです。HKR27の中では、一年しか時間が経っていません。そして、双子を比較した映像を全世界に流すのです。ロケットに乗っていた方が明らかに若いということを。そうすれば、人々もイメージが湧く筈です」

「それはそうかもしれないが……」

「HKR27には、人間ひとりと一年間分の食料、水、酸素を運ぶ能力があります。今やらなければならないのです。HKRが帰ってくる10年後、それが亜光速時代の幕開けになるのです。全人類を新しい時代に適応させるという重大な役目を果たすのです」

「分かった。そうしよう」

 こうして、双子のパラドックス計画が開始された。実験に選ばれたのは、二十歳の一卵性双生児の兄弟だ。HKR27出航前のふたりを映像に残す。もちろん瓜二つで、見分けが付かない。
 そして、兄の方がHKR27に乗ることになった。その間弟は地球で暮らす。もちろんふたりには、多額の報酬が払われた。

 そして、兄を乗せた最新型ロケットHKR27が出航した。

「これで、人々の意識が変わる。十年後、歳をとった弟と、若々しい兄を眼にすることで、人間の意識が変わるのだ。言ってみれば、新しい時代に向けての人類の進化だ」

 実験の計画者は、そう高らかに宣言した。


 地球に残った弟は、実験の報酬で貰った金で何年間も遊びまくっていた。彼の友達は言った。

「お前、全然変わらないな。昔のままだ」

「当たり前さ。毎日楽しいことだけをして暮らしているんだ。心が若々しいんだよ。だから歳を取ったように見えない」

 一方、ロケットに乗った兄は、苦悩していた。狭い宇宙船の中での孤独な生活。今にでも頭がおかしくなりそうだった。そのため、短い期間で彼の外見は急速に老けていった。

 そして、地球時間で十年後、HKR27は地球に帰還した…………。


あとがき
posted by まえぞう at 17:20| Comment(6) | TrackBack(1) | SFっぽいショートショート

2007年09月24日

番犬機能

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 ペットロボットに新機能

 犬型ペットロボット『メタルドッグ』に番犬機能が搭載された。かつて犬は侵入者に対して吠えることで番犬と呼ばれるセキュリティ機能を果たしていた。しかし不審者だけではなく、知らない人間全てに吠えてしまうという問題を抱えていた。初めて招いた客や宅配業者にも吠えまくることから、犬を番犬として飼うという文化は廃れていった。
 今回、我社は新開発の悪人探知センサーを用いることにより、かつての番犬の欠点を廃除したセキュリティ機能を持たせることに成功した。これは、悪人が侵入した場合にのみ吠えるというもので悪意のない客などには吠えることがないという画期的な技術である。
――――――――――――――――

 この広告を見てすぐに購入した。しかし届いたのはとんでもない欠陥品で、初期不良として修理のため、すぐにメーカーに送り返した。そろそろメーカーから連絡があるころだ。

 ちょうどその時電話がなった。

「もしもし」

「メタルドッグ株式会社の者ですが」

 やはりメーカーからだった。

「ご返品されました製品の検査を行いましたが、どこにも異常はありませんでした」

「何言ってんだ!一日中吠え続けるんだぞ!欠陥品に決まっているじゃないか!」

「お客様の御自宅に不審者が隠れているという可能性はありませんか?」

「そう思って探し回った。どこにもいなかった」

「そうですか……。念のためお聞きしますが、メタルドッグはどこに向かって吠えていましたでしょうか?」

「どこって、俺だよ。俺に向かって吠えまくるんだから、うるさくってたまったもんじゃねぇ」

「……そうですか……実はたまにそのような事例が……。お客様との相性が悪い……というか……」

「相性が悪い? 何じゃそりゃ! 馬鹿なこと言ってると、ぶっ殺すぞ! このやろう!」

あとがき
posted by まえぞう at 10:29| Comment(4) | TrackBack(0) | SFっぽいショートショート

2007年07月20日

自分の未来

 僕には予知能力がある。目の前にいる人に向かって意識を集中すると、その人の未来が見えるのだ。しかし残念なことに自分の未来はわからない。鏡に写った自分の姿に意識を集中しても無駄なのだ。直接見た人の未来しかわからないようだ。
 何だか、悔しい。はっきり言って他人の未来なんか興味がない。僕が知りたいのは、自分の未来だけだ。
 自分の未来を知りたい、人の未来がわかるだけにその気持ちがどんどん強くなっていった。そして、自分の未来がわかる方法を必死になって探した。そして見つけた。

 もうすぐ自分の未来がわかる。僕と同じ能力を持った人間がもうひとりいることを見つけ出したのだ。その人とこの喫茶店で待ち合わせをしている。お互いに相手の未来を見てそれを教えあう約束をしたのだ。
 ついにその相手が来た。簡単な自己紹介の後、向かい合って座り、互いに相手に意識を集中する。見えた!

「あ!」

 その瞬間、ふたり同時に大きな声を上げた。
 その後は声にならない。
(そんな馬鹿な。やっと自分の未来がわかるときが来たのに)
 そして……

『今日のニュースです。都内の喫茶店でガス爆発事故が発生しました。店内にいた客と従業員は全員死亡……』

あとがき
posted by まえぞう at 06:49| Comment(10) | TrackBack(1) | SFっぽいショートショート

2007年07月05日

輪廻転生

 輪廻転生。
 熱心ではなかったが、一応仏教徒だったのでその言葉は知っていた。しかし本当に生まれ変わりがあるとは思っていなかった。俺は、今、女性の腹の中にいる。もうすぐ生まれ変わりるのだ。多分どこかの時点で今の俺の記憶、新しい命にとっての前世の記憶は消えてしまうのだろう。しかし生まれた後に短期間でも今の記憶が残っていたら、やってみたいことがある。生まれてすぐにこう言ってやるのだ。

「天上天下唯我独」

 そう、釈迦が生まれた時に言った言葉だ。そして皆の驚く顔が見たい。
 そのとき、俺のまわりの空間が大きく収縮し、脈動した。どうやら生まれるらしい。俺は強い力で産道と思われる狭い空間にねじり込まれていった。
 頭が締め付けられる。
 苦しい。
 想像を絶するほどの強い苦しさと辛さだ。少しでも気を抜くと意識を失いそうだ。もし意識を失ったら、その時点で今の記憶が消えるのだろう。
 気を抜いてはいけない。何とか記憶を保ったまま生まれて皆を驚かせるのだ。
 その想いだけでこの辛さを耐えた。耐えて耐えて耐え抜いた。

 急に辺りが明るくなった。ついに誕生の瞬間を迎えたのだ。まだ苦しさは治まらない。今にも意識を失いそうだ。その前に言うのだ。あの言葉を。しかし、慣れない体でなかなか声が出ない。
 それでも絞り出すように言った。皆の驚く姿を見たい一心で。

「てん…じょうて…んげ…ゆいが…どく…そん…」

 やった! 何とか言えた!
 そのときナースと思われる女性の声が聞こえた。

"Ah! What a cute baby! it's strange crying!"

 その瞬間、俺は意識を失った。


あとがき
posted by まえぞう at 19:14| Comment(8) | TrackBack(0) | SFっぽいショートショート

2007年06月23日

悪魔vs人間

「もっと殺せ!人間どもを恐怖の底に叩き落とせ!」

 俺は悪魔だ。最近、人間どもがあまりにも偉そうにしているのが気に食わなくなった。それで、人間を支配してやろうと思いたったのだ。
 俺は人の悪い心に付け込んで、その人間を操ることができる。まず何百人かの人間を操って世界中で凶悪犯罪を起こさせた。さしずめ悪魔の化身と言ったところだ。人間どもは国際的な暴力組織かテロ集団の仕業だと思ったようだ。徹底的に反抗してきた。悪魔の化身と人間たちの全面抗争のような状態になった。化身たちも沢山死んだが、そんなことは関係ない。死んだら新たに他の人間を操るだけのことだ。一度に操ることができる人数には制限があるが、補充はいくらでもきく。

 そんな状態が二年ほど続いた。実は人間を操るのには大変なパワーが必要だ。俺のパワーは尽きかけていた。しかしそれも計算のうちだ。
 人間どもが徹底抗戦しているのは、相手が人間だと思っているからだ。俺が姿を現して、敵が悪魔だとわかれば敵わないと思って平伏す筈だ。この二年間でそれだけの恐怖は与えてきた。後はパワーを使わなくても人間を支配できる。

 今、各国の首脳が集まって会議を開いている。議題はもちろん国際的な凶悪犯罪組織対策だ。もうすぐ会議が終わり、声明が発表される。多分、凶悪な人間には屈しないとかいう内容だろう。いいタイミングだ。その声明発表の直後に俺が姿を現し、本当の敵は人間でなく悪魔なんだと知らしめる。そうすれば、人間たちはショックを受け、抵抗する気力を失う筈だ。

 声明が発表された。それを聞いて、俺は自分の甘さを悟った。俺が思っていた以上に人間は強かったようだ。敵が悪魔だとしても抵抗を止めるような弱気な存在ではなかった。

 俺は、その声明の最後の部分を思い返した。

『我々は、決して暴力に屈しない。敵がどんなに強大でも、あくまでも抵抗を続ける』


あとがき
posted by まえぞう at 17:18| Comment(3) | TrackBack(1) | SFっぽいショートショート

2007年06月20日

再開

 大宇宙船団が地球を目指して進んでいる。五百年前、戦争によって放射線まみれになった地球を脱出した人類が、戻ってきたのだ。
 戦争のきっかけは、各地で同時期に多発した領土問題だった。局所的な戦争があちこちで始まり、それが全世界に広まった。最終的には核戦争にまで至り、地球は人が住める状態ではなくなった。生き残った人類は宇宙に旅立った。
 五百年が過ぎ、地球の汚染が回復したため、故郷に戻ることにしたのだ。この五百年の間に、人口も増えて戦争前の水準に戻っていた。
 宇宙船団は、放射能汚染が浄化され、緑溢れる星に戻った地球に着陸した。自分たちの祖先の国があった場所に別れて。日本船団は日本へ、アメリカ船団はアメリカへ、中国船団は中国へ……。もちろん、戦争の元となった領土問題については、話し合いで解決済みだ。

 しばらく経って、問題が浮上した。この五百年の間に地形が変わった場所が数多くあったのだ。新たに浮上した島もあった。そういう場所でいざこざが発生し始めた。

「ここは俺たちの国の領土だ!」

「いや!俺たちの領土だ!」

 領土をめぐって局所的な戦争があちこちで始まり、それが全世界に広まった。最終的には…………。


あとがき
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2007年06月16日

どっきり番組

 楽屋でテレビを観ていると、急に画面が変わった。臨時ニュースらしい。緊張した表情のアナウンサーがアップで映し出される。

『先ほど、日本時間15時、国連本部に宇宙人からの宣戦布告のメッセージが届きました。宇宙人は、地球人を皆殺しにすると宣言した模様です』

 廊下で多くの人が走り回る音が聞こえて、騒がしくなった。俺は、少しの間呆然としていた。というより、呆然としたふりをしていた。
 俺のような芸人は、よくどっきり番組の標的にされる。今回も間違いない。絶対にどっきりだ。それならば、しばらく呆然としていた方がいいと判断したのだ。
 急に楽屋のドアが開いて、ADが叫んできた。

「今日の撮影は中止です!!」

 今日は、聞いたこともない番組の収録のために、テレビ局に来たのだ。それも、どっきりだと思った理由のひとつだ。どうせ、俺をおびき出すためのニセ番組だろう。

「外に逃げろ!!」

 大きな声が聞こえた。そろそろ、慌ててパニックになった振りをした方がいい。どっきり番組は、面白くなければ放送されない。みんな、俺の慌てる姿を見たがっているのだから、それに合わせなければならない。
 俺は、楽屋を飛び出した。廊下は、パニックになった人で一杯だった。かなり手の込んだどっきりのようだ。俺は人を押しのけて、エレベーターに乗り込んだ。みんなが期待しているように行動しなければならない。
 一階に到着すると、すぐに建物の外に飛び出した。とにかく、慌ててパニックになったふりをするのだ。
 外も人で溢れかえっていた。一体、何人のエキストラを使っているのだろう。これほど、手の込んだどっきりは初めてだ。
 空を見上げて驚いた。何台もの円盤が空をとんでいたのだ。どんなトリックを使ったのかわからない。本当に手が込んでいる。
 円盤から、次々と光線が発射される。その光線に当たった人は、その場に倒れていく。倒れ方も迫力がある。エキストラとは思えないほどの演技力だ。これだけ凄いどっきりに登場できるというのは、芸人冥利に尽きるというものだ。俺は、パニックになった振りをして、必死になって逃げまくった。周りの群衆より目立つように、手振り身振りを大きくし、大声で叫び続けた。

 そのとき、円盤から発射された光線が俺に当たった。そのとき、これまでに感じたことのない衝撃を全身に感じた。だんだん意識が遠くなっていく。そのとき初めてわかった。これはどっきりなどではない。本当に宇宙人が攻めてきたのだ。光線に当たって倒れた人たちは演技などではなかったのだ。――そして、俺は意識を失った。

 一時間後、国連本部に再び宇宙人からのメッセージが届いた。

『お騒がせしてすいません。先ほどの宣戦布告は嘘でした。我々は宇宙第一テレビのものです。宇宙の辺境に済む人類にどっきりを仕掛けるという番組の撮影だったのです。あの光線は、しばらく気を失うだけで命には全く影響ありませんので、ご安心下さい。お陰でいい映像が撮影できました』

 この番組は宇宙中で放映され、評判を呼んだようだ。特に、日本という国のある芸人の慌てっぷりが、最も人気だったそうである。


あとがき
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2007年04月13日

人類の将来

 二十一世紀、クローン技術と脳移植技術の完成により、人類は長年の夢を実現させた。不老不死である。ある程度の年齢になれば、若い自分のクローンに脳を移植するのだ。それによって人格や記憶はそのままで、肉体だけ若返ることができる。
 倫理的な問題が議論されたりもしたが、自分が不老不死になれるという誘惑には勝てなかった。人類全員が、不老不死になることを選択した。ここで、大きな問題が浮上してきた。人工増加である。人間は、脳に致命的な損傷を負う事故以外では死ぬことがなくなった。子供が産まれると、それだけ人口が増えることになる。そこで、人類は新しく子供を作らないことを決めた。今生きている人間だけで、永遠に暮らしていくことになったのだ。


[二十三世紀]

 ひとりの男性が、古い本を読んでいた。

『アルツハイマー病 βアミロイドが脳に蓄積することで発生する脳の病気。βアミロイドは、アミロイド前駆体タンパク質がプレセニリンによって分解されて生成する。これは、健康な人間にもある機構だが、通常は発症するほどβアミロイドが蓄積される前に寿命を迎える。遺伝的にアミロイド前駆体タンパク質やプレセニリンに異常がある場合に、寿命前に発症する。…………』

「昔の本は、何が難しくて何が書いてあるかわからん。そんなことより、昼食まだじゃろうか? もう食べてしもうたんじゃろうか?」あとがき
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2007年03月31日

人類の未来

 二一世紀、世界のグローバル化が急速に進み、各国間の経済格差が無くなっていった。もはや発展途上国と呼ばれる国は消滅し、全世界が同等の経済力、科学力を有するようになった。それと同時に人類にとって大きな問題が表面化してきた。かつて、先進国と呼ばれていた国で問題になっていた少子化が、全世界共通の課題となったのだ。

 これに対応するため、全世界で同じ政策が採られた。子供を産んで育てる夫婦に多額の援助をするというものだ。子供が四人以上いれば、働かなくても補助金のみで生活が可能になり、夫婦共に子育てに専念できる。もちろん、多くの子供を産んで育てるほど裕福な生活ができるのだ。
 この政策により、人類の二極化が進んでいった。エリート層と子育て層にはっきりと分かれたのだ。エリート層は、クリエイティブな仕事(コンピューターとロボットの発達によって人間の仕事は創造性を発揮することに限られていった)を行い、多額の報酬を得る。子育て家庭への補助金のため多額の税金を徴収されるが、それでもエリートは裕福な生活を送れる。彼らはエリート同士で結婚して、子供は作らず仕事に専念する。
 子育て層は、エリートになれなかった人間同士が結婚して、子供を多く産んで育てる。そして、エリート層の税金から補助金を貰って生活する。仕事をする人と子育てをする人が完全に分離されたのだ。このシステムは、上手く機能した。

 このシステムが継続したまま、長い時間が過ぎていった。
 その遠い未来でのある夫婦の会話。

「ねえ、あなた。えーと、自然選択とか自然淘汰って言葉知ってる?」

「うーん、聞いたことないな。何だい? それ?」

「私もよくわかんないんだけど、進化か何かの言葉みたい。ちょっと目にしただけ」

「どういう意味の言葉?」

「生き物は、環境に適応できた優秀なものだけが子孫を残すんだって」

「ふーん。だから?」

「優秀じゃないと子孫を残せないから、その、えーと、何だっけ……DDAだったかしら、何かそんなものが残せないって。だから優秀なNNAだけが残って、進歩していく、みたいな言葉」

「何のことかよくわからないな」

「でしょ? わたしもわかんないから、あなたに聞いてみたの。やっぱりわかんないのね」

「でも、その自然何とかって、人間の場合はどうなるんだろう? 優秀なエリートは子孫を残さないから……その場合は……あー、頭が痛くなった。訳わからない」

「でしょ? 訳わかんないでしょ」

「まあ、そんなことどうでもいいじゃないか。俺たちふたりは、人類の中でも優秀なエリートだってことには変わりないんだから」


あとがき
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2007年03月05日

人生体験サービス

「お祖父ちゃん……」

 薄れていく意識の中で、孫のユウスケの泣きそうな声が聞こえた。私は、全く反応することができない。病院のベッドの上で、横たわったままピクリとも動けない。

(もう終わりだな……)

 七十年の人生、決して悪いものではなかった。家族に恵まれ、平凡ながら幸せな人生だった。あれほど恐れていた死が、今は怖くない。そのまま、静かに意識が無くなっていった。


「いかがでしたか?」

 朦朧とした意識の中で、マニュアル通りの機械的な声が聞こえた。少しの間、状況を掴むことができなかった。私は、真っ白い部屋の中で、ゆったりとした椅子に横たわっている。声をかけてきたのは、白衣を着た若い男だ。少しずつ意識がはっきりしてきて、全てを思い出した。

「素晴らしい。七十年の幸せな人生を体験した」

「お気に召していただいて光栄です」

 男はそう言いながら、私の頭から伸びている沢山のコードを外していった。ここは、人生体験サービスの会社だ。私は、一時間ほど椅子の上で眠っていただけなのだ。その一時間のうちに、意識だけが七十年の人生を体験したのだ。とにかくリアルな人生体験だった。本当の人生との区別などつかないほどだ。本当の私はまだ四十歳だが、七十歳までの人生を経験したことは、今後の人生に大いに役に立つだろう。

 私は人生経験サービス会社を後にして、自宅に向かった。今終えたばかりの経験を思い出しながら。

「危ない!」

 突然、大きな声が聞こえた。驚いて上をみると、建設中のビルから大きな鉄骨が凄い勢いで近づいてきていた。私は一歩も動くことすらできなかった。
 そのまま、鉄骨の下敷きになった。意識が薄れていく。そう、あの時もこんな感じだった。人生体験サービスで経験した死の瞬間。私はこのまま死んでいくのだ、そう確信した。


「いかがでしたか?」

 マニュアル通りの機械的な声が聞こえた。思い出した。そう私は四十歳で不慮の事故で亡くなる人生体験サービスを……。あとがき
posted by まえぞう at 21:07| Comment(6) | TrackBack(0) | SFっぽいショートショート

2007年02月15日

スーパーヒーローパワースーツ

「一体どうなっているんだ! 今の社会は!」

 博士が声をあらげて叫んだ。長年助手を務めてきた僕には、その気持ちがよくわかる。博士が開発したスーパーヒーローパワースーツの販売差し止めが決定したのだ。このスーツを着るとスーパーヒーローなみのパワーが発揮できるという凄い発明品だ。

「わしらが子供のときは、皆スーパーヒーローに憧れていたものだ。自分で世界の平和を守りたいと本気で思っていた。それが今の人間たちは自分のことしか考えない。自分さえよければそれでいい。何故そんな世の中になってしまったのだ!」

 このスーツは売れに売れた。しかし正義のために使っ人間は皆無だったのだ。購入した人は、自分の欲を満たすためにスーツを利用した。そして、スーツを使った犯罪が急増したことで、販売差し止めになってしまったのだ。

「こうなったら仕方ない。次の発明品を売り出そう」

 僕は博士のその言葉に思わず反論した。

「あれを売り出すんですか?」

「当たり前じゃないか。そのために開発したのだ」

 博士は当然のように言った。
 次の発明品、それはスーパーヒーロースピードスーツだ。これを着るとスーパーヒーローのように人並みはずれたスピードで行動できるのだ。

「それではパワースーツと同じ事になりますよ。犯罪が増えて……」

「そうだろうな。そのうち販売差し止めになるだろう。だからそれまでに売りまくって、大儲けしておかねば。パワースーツのときみたいに」


あとがき
posted by まえぞう at 18:33| Comment(2) | TrackBack(0) | SFっぽいショートショート

2006年11月21日

ニヤリ

 宇宙船が故障して、近くの惑星に不時着した。緑豊かな綺麗な星だ。大気の成分は地球と同じ。俺は恐る恐る外に出てみた。空気が美味しく、風が気持ちいい。久しぶりの爽快感だ。ふと見るとひとりの男性が、こちらに向かって走って来るのが見えた。この星の住人だろうか。
 その男性が俺に向かって言った。

「あなたは、地球の方ですね」

「はい、そうです」

「良かった。実は私も地球人なんです。十年前にこのニヤリ星に不時着したのです。宇宙船に書かれていた文字を見て、地球の人だと思って急いでここに来たのです」

「そうなんですか。地球の人がいてくれて心強いです」

「ここは、いい星ですよ。住人もいい人ばかりです。でも地球とは違うこともあります」

「違うことですか」

「ここに住んでいるニヤリ星人は、言葉をしゃべりません。笑顔で意志疎通するのです」

「笑顔でですか?」

「そうです。ニヤリとした顔の微妙な違いで意志を伝えるのです。私は今でこそ、笑顔を読み取ることができるようになりましたが、最初は苦労しました。あなたも大変だと思いますが、しばらくは私が通訳しましょう」

「それはありがたい。よろしくお願いします」

「念のため、あなたの笑顔を見せて貰えませんか?」

「笑顔ですか?」

「あなたのニヤけた顔が、この星ではどういう意味になるのか、確かめてみたいのです。ちょっとニヤけてみて下さい」

「こうですか?」

 俺は少しニヤリとした。

「大変だ!これはまずい」

「どうしたんですか?」

「あなたのニヤリとした顔、それはこの星での最大の侮辱を意味します。そんな顔を見せたら間違いなく相手に殺されます。いいですか? あなたがここに慣れて、笑顔の意味が分かって、自分の笑顔をコントロールできるようになるまで絶対にニヤけた顔を見せないようにして下さい」

「分かりました。そうします」

「では私について来て下さい。この星の人に紹介します」

 俺は彼について行った。
 彼の言ったことは本当だった。ここの人たちは言葉をしゃべらず、ニヤリとした顔で会話している。そして、素晴らしいところだと言うのも本当だ。人々は皆優しく接してくれる。俺のために住むところまで用意してくれ、身の回りのことまで世話してくれると言う。

 俺が用意してもらった家にいると、ひとりの若い女性がやってきた。びっくりするほどの美人だ。俺はニヤけそうになるのを必死で堪えた。

「彼女が、今日からあなたの世話をするそうです」

 彼が通訳してくれた。こんな美人が世話をしてくれるなんて。またニヤけそうになるのを必死で堪えた。
 それから、彼女は毎日世話をしにきてくれた。向こうにとっては、ただの会話だとは分かっているのだが、こんな美人が俺に笑顔を向けてくれると凄く嬉しい。つい、こちらもニヤけそうになる。でも必死で我慢した。
 何日か経ったとき、彼に言った。

「毎日、あの子が俺に微笑みかけてくれると、俺に惚れているんじゃないかと勘違いしてしまうよ」

 すると、彼は言った。

「まんざら、勘違いでもないかもしれないぞ。彼女は君に好意を持っているようだ」

 俺は、舞い上がった。こんな美人が自分に好意を持ってくれているだなんて。
 数日後、彼女がやってきて、俺ではなく彼に向かって笑顔を見せた。何だろうと思っていると、彼がこう言った。

「私に席を外してくれって。君とふたりきりになりたいそうだ」

 思わず、ニヤけそうになる。それをぐっと堪える。彼が言われた通り席を外し、俺は彼女と二人っきりになった。
 彼女が抱きついてくる。そして俺の顔を見て、笑顔を見せた。それから、彼女はゆっくりと服を脱ぎ始めた。
 駄目だ。俺はこんな状況で冷静でいられるほど人間ができていない。ニヤけてはいけない。そう強く思う。しかし、眼は彼女の方を向く。彼女の姿を見ると……俺も男だ……もうどうしようもない。
 結局、俺は誘惑に負けた…………ニヤリ。



あとがき
posted by まえぞう at 18:44| Comment(6) | TrackBack(0) | SFっぽいショートショート

2006年11月04日

現代版フランケンシュタイン

「ふ、ふ、ふ、完璧だ」

 今、私の目の前で液体窒素の中に横たわっているのは、青年の体だ。私は天才外科医。何人もの青年の遺体から未損傷の部分を集めてつなぎ合わせたのだ。現代版フランケンシュタインというところだろうか。しかし、私の外科医としての腕は、本当に天才的だ。つなぎ目は、素人目には、いやプロの目でも分からないだろう。もちろん、皮膚だけでなく、骨、筋肉、神経、血管、全て完璧につなぎ合わせている。
 この青年の体には、どこにも悪いところはない。完全な健康体だ。しかし、生きていない。この体に命を吹き込むのだ。それには電気ショックしか方法はない。
 私は、青年の体を徐々に温めた。そして、常温に戻ったところで電気ショックを与えた。

「ビリッ!」

 一瞬、青年の体がピクンと動く。しかし、それ以上動きはない。

「電気が弱かったか」

 私は、そう言って目盛りを50%に合わせる。そしてもう一度電気を流した。

「ビリッ!」

 それでも動かない。仕方ない。私は人類初のことに挑戦しているのだ。簡単に上手くいく訳がない。

 私は目盛りを80%に合わせた。

「ビリッ!」

 私は、青年の体をじっと見つめる。しかし、動く気配がない。これ以上、電気を強くすると危険だ。しかし、このままでは仕方がない。私は、目盛りを100%に合わせた。

「ビリッ!」

「やはり駄目だったか」

 周囲に焦げ臭い匂いが充満していた。青年の体から発散している匂いだ。実験は完全に失敗だ。健康体だった青年の体は、電気により全身大やけどを負ってしまった。


「そろそろ、本当のことを言ったらどうなんだ」

「だから、私は現代版のフランケンシュタインを」

「馬鹿なことをいうな。司法解剖の結果、そんな証拠は何も出ていない。人間に電気ショックを与えて殺したんだろう!」

「だから、私の腕は天才的で……」

「まだそんなことをいうのか! お前は人を殺したんだ! 早く被害者の身元を明かすんだ。そうしないと一生刑務所から出られないようにするぞ!」





あとがき
posted by まえぞう at 18:53| Comment(4) | TrackBack(0) | SFっぽいショートショート

2006年10月08日

アダムとイブ

 俺は天界に住む天使。今から、地上に行かなければならない。俺は、人間が大嫌いだ。出来れば人間などと関わりたくない。しかし、神様からの大事な命令だ。気が向かないが、従わなければならない。

 神様は、神の意志に背いてばかりいる人間たちを、一度滅ぼすことを決めた。そして、男女ひとりずつを無作為に選び、その二人を新しいアダムとイブにして、人間の歴史を一からやり直すことにしたのだ。俺は、その新しいアダムとイブにそのことを伝えに行くという役を授かった。



「キャー、あんたってもしかして天使? ヤダー、可愛い〜」

 これだから人間は嫌いだ。本当に馬鹿丸出しではないか。しかし俺は仕方なく神様からの伝言を伝えた。

「え〜、あたしが選ばれたの? 超ラッキー! で、何? そのアダムとイブって」

 俺は頭を抱えた。あまりにも酷すぎる。いくら無作為に選んだといっても、こんな馬鹿は止めておいた方がいいと思う。でも、神様が決めたことだ。俺がどうこう言うことではない。

「とりあえず、神様からの話は伝えたからな!」

「え〜! もう帰っちゃうの? 天使ちゃん、また来てね〜」

 俺は、伝言だけを伝えて、すぐにその場を離れた。ゆっくりしている暇はない。まだ、仕事が残っているのだ。

「本当に面倒くさいな」

 そう思いながら、俺はもう1人の人間、新しいイブになる女のところへ向かった。



あとがき
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2006年09月28日

ミートプラント

 仕事を終えて帰宅すると、部屋の中にいい匂いが漂っていた。

「お! 今日は牛肉のステーキか!」

「たまには、贅沢しないとね。でも、牛肉ってどうしてこんなに高いのかしら?」

「お前、牛肉の木って見たことあるか?」

「見たことないわ」

「牛肉みたいに高タンパクの実を付けるには、地中の栄養分を沢山吸収しないといけないんだ。だから地中に大きくて広い根をはるんだ。だから、木と木の間隔を広く空けて植える。同じ面積で採れる量が少ないから、どうしても高くなるんだ」

「そうなんだ。でも、昔は牛肉の木ってなかったんでしょう?」

「ああ、牛っていう動物がいたらしい。昔の人はそれを殺して食べてたみたいだよ。その肉の味がする実をつけるように牛肉の木を創ったんだ」

「卵の木やトロの木やエビの木なんかも、同じ?」

「うん、全部昔の人が食べていたものと同じ味の実を付けるように創られたものだ」

「昔の人って、動いている動物を殺して食べてたのね。何だか残酷な気がするわ」

「そうだね。それと植物だったら二酸化炭素を炭素源にできるし、太陽のエネルギーを使うから効率的だしね。だから、食べものは全て植物にしたんだ」

「そうなんだ。……ちょっと話を変えてもいい?」

「ああ、いいよ」

「今日、何でご馳走にしたのか分かる?」

「え……もしかして」

「そうなの。政府から許可がおりたのよ。子供を持っていいって」

「やった! やっと子供を持てるんだね」

「だから、早速明日……」

「ああ、ふたりで赤ちゃんの木を見に行こう!」


あとがき
posted by まえぞう at 20:58| Comment(8) | TrackBack(0) | SFっぽいショートショート