僕は大学入試を間近に控えた受験生。真夜中に少し息抜きをしようと思い、ネットにアクセスした。少しの時間だけの気晴らしを求めて、簡単なゲームのサイトを探した。そして、『人生ゲーム』というサイトを見つけた。
(確か、同じ名前のボードゲームがあったな。まあ、ちょっとやってみよう)
少しだけのつもりで、ゲームを始めた。同名のボードゲームと似たすごろくタイプのゲームだった。ルーレットを回し、出た数だけ進む。そして止まった場所に人生のイベントが書かれている。それだけのゲーム、単純極まりない。
・スタート:普通のサラリーマンの家庭に長男として生まれる。
・二歳:弟が生まれる。
・五歳:交通事故に遭い三ヶ月入院。
・六歳:小学校に入学するがすぐに転校。
自分で判断するようなところはない。ルーレットの目だけに頼る運任せのゲームだ。しかし、僕は途中で止めることができなかった。
・十五歳:高校入試。第一志望の進学校に不合格。近くの公立高校に進学。
・十六歳:始めて、女性と付き合う。
ゲームを進めるにつれ、僕の血の気がだんだん引いていった。ここまでのゲームの流れは、僕の人生そのものだったからだ。そして、ついに実際の僕の年齢になった。
僕の喉はからからに渇いていた。これからどうなるのだろう。ここまでは自分の人生そのものだった。これからは、僕の未来が展開されるのだろうか。恐る恐るルーレットをクリックした。ルーレットが回転を始める。そして、少しずつ回転が弱まり、そして止まった。
「3……か」
コマが動き始める。三つ先の場所に書かれた文字。
・十八歳:大学入試に失敗。浪人する。
心臓が止まるのではないかと思うほどの衝撃を受けた。僕は受験に失敗するのか。更にゲームを続けた。しかし、そこに展開されたのは悲惨な人生だった。
・二十歳:二浪の末、三流大学に入学。
・二十二歳:父親が借金を残して失踪。大学を辞めて働き始める。
・二十四歳:きつく、つらい仕事を続ける。他にいいことはなし。
・二十六歳:殺人事件の冤罪で逮捕される。
・二十八歳:獄中でひっそりと息を引き取る。ゲームオーバー
しばらくの間、放心状態だった。これが僕の運命なのだろうか。それにしても酷すぎる。これはただのゲームだ、僕の本当の人生とは関係ない、そう思い込もうとした。しかし、できなかった。これまでの人生があまりに一致していたからだ。
しばらくして、気が付いた。
(そうだ! 人生を変えてやればいいんだ!)
このゲームに書かれている通りに行動する必要はないのだ。違う道を歩けばいい。わざわざ、二浪までして三流大学に入る必要はない。どうせ、辞めることになるのなら、最初から働けばいいのだ。専門学校へ行くという手もある。
そのことに気付いて、僕の心は軽くなった。このゲームが、『頑張れ』という神様からのエールにさえ思えてきた。
僕は決めた。まず、今まで以上に入試勉強に力を入れる。そして大学に現役合格するのだ。そうすれば、運命は変わる。もし、入試に失敗したら、大学はすっぱりあきらめる。そうすれば、どちらにしてもゲームとは違う運命になるはずだ。もし、このままだらだらしていたら、このゲームのような大変な人生が待っているのぞという激励だと考えよう。人生ゲームはそのことを気付かせてくれたのだ。僕は心の中で叫んだ。神様、ありがとう……と。
『神様、面白いことを始めたって本当ですか?』
『おお天使か。そうそう、人間たちの間で流行っているネットゲームというのを創ってみたのだ。その人間の運命が分かるゲームだ』
『でも、運命って変わるものでしょう。そこはどうされたのですか?』
『そうだ。人間の運命にはいくつかの可能性がある。その可能性の中で一番素晴らしい人生を見せてやるようにしたんじゃよ。人間たちを落胆させるのは嫌だからな……』
あとがき
まえぞうのショートショートへようこそ。全部読み切りで、短い時間で読める小説です。ラジオドラマにも採用されています。少しの間、楽しんでいって下さい。
ブログコミュニティ「edita(エディタ)」に参加しました。ショートショート倶楽部というコミュニティーを作っています。ショートショート好きのブロガーさん、是非参加して下さい。ブログでショートショートを公開している方は、エディター登録して頂ければ嬉しいです。
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2006年05月12日
2006年04月06日
名前、変えます
「ある日、私はパソコン雑誌を読んでいました。その記事の中に見つけたのです。『あなたのセキュリティーは大丈夫ですか。パスワードは人に類推されにくいものを使ってますか。自分の名前をパスワードにしているのは最悪です』という文字を。私はハッとしました。名前をそのままパスワードにしていたからです。私はすぐにパスワードを変えようとしました。でも、そのとき気付いたのです。名前をパスワードにしているサイトが沢山あることに。これでは、パスワード変更作業が大変なのです」
「それで?」
「それで、と言われても……。これだけです」
「これだけ? あなたの氏名変更も申請理由はそれだけですか」
「駄目ですか? でも私は諦めません。何度却下されても申請を続けます。例え何年かかろうとも……」
あとがき
「それで?」
「それで、と言われても……。これだけです」
「これだけ? あなたの氏名変更も申請理由はそれだけですか」
「駄目ですか? でも私は諦めません。何度却下されても申請を続けます。例え何年かかろうとも……」
あとがき
2006年03月15日
シミュレーション
「どうだ? 進んでいるか?」
「ああ、商業主義がかなり進んでるな。一旦平等に近い社会になっていたのが、また貧富の差が激しくなっている」
「かなり、現実の世界に近づいてきたな」
「ああ、今回のモデルはかなり出来がいい」
「こんな研究をしていると、混乱してくるな。実は俺たち自身も、コンピューターのシミュレーションに過ぎないのではないかと思えてくるよ」
俺たちは、世界最速のスーパーコンピューターを使って、人間社会のシミュレーションをしている。シミュレーションの中の環境は、我々の住んでいる社会にかなり近いものになっている。この中では、個々の人々はそれぞれ人格を持ち、自分の意志で行動している。それらが集まり、社会を構成していく。その社会の変化が、現実の我々の社会の歴史をなぞったように進んでいるのだ。
「そうだよな。俺たちって本当に実在しているのだろうか? どこかの研究者のコンピューターの中で行われているシミュレーションの一部じゃないか? ついそんな風に考えてしまうよ」
「でも、俺たちが行っているシミュレーションは、まだまだ単純だ。実際の俺たちはもっと複雑な行動をしている」
「そうだな。でも、もしこのコンピューターより優れたものがあれば。そして俺たちより優秀な研究者がいたら……」
「ああ、俺たちを動かしているとすると、とんでもなく優秀なコンピューターととんでもなく優秀な研究者だろうな」
シミュレーションの中のモデル人間が、そんな話をしている。でも、もう関係ない。そう思ってコンピューターの電源を切った。そのとき、誰かが話しかけてきた。
「夏休みの自由研究どうだった? パソコンで何かシミュレーションしてたんだろ?」
「人間社会のモデル化したんだけど……単純すぎるって先生に叱られた。でもうちのパソコンの能力じゃこれが精一杯……」
あとがき
「ああ、商業主義がかなり進んでるな。一旦平等に近い社会になっていたのが、また貧富の差が激しくなっている」
「かなり、現実の世界に近づいてきたな」
「ああ、今回のモデルはかなり出来がいい」
「こんな研究をしていると、混乱してくるな。実は俺たち自身も、コンピューターのシミュレーションに過ぎないのではないかと思えてくるよ」
俺たちは、世界最速のスーパーコンピューターを使って、人間社会のシミュレーションをしている。シミュレーションの中の環境は、我々の住んでいる社会にかなり近いものになっている。この中では、個々の人々はそれぞれ人格を持ち、自分の意志で行動している。それらが集まり、社会を構成していく。その社会の変化が、現実の我々の社会の歴史をなぞったように進んでいるのだ。
「そうだよな。俺たちって本当に実在しているのだろうか? どこかの研究者のコンピューターの中で行われているシミュレーションの一部じゃないか? ついそんな風に考えてしまうよ」
「でも、俺たちが行っているシミュレーションは、まだまだ単純だ。実際の俺たちはもっと複雑な行動をしている」
「そうだな。でも、もしこのコンピューターより優れたものがあれば。そして俺たちより優秀な研究者がいたら……」
「ああ、俺たちを動かしているとすると、とんでもなく優秀なコンピューターととんでもなく優秀な研究者だろうな」
シミュレーションの中のモデル人間が、そんな話をしている。でも、もう関係ない。そう思ってコンピューターの電源を切った。そのとき、誰かが話しかけてきた。
「夏休みの自由研究どうだった? パソコンで何かシミュレーションしてたんだろ?」
「人間社会のモデル化したんだけど……単純すぎるって先生に叱られた。でもうちのパソコンの能力じゃこれが精一杯……」
あとがき
2006年03月03日
オンラインゲーム
私は今、あるオンラインゲームにはまっている。特別面白いという訳でもないのだが、何故か止められないのだ。ごく普通の日常をバーチャルで体験するだけのマイナーなゲーム。プレイヤーは日常を移した世界で、住人として参加し、仕事をしたり、遊んだりするだけなのだ。私はゲームの世界でも、現実と同じように商売をしている。扱う商品が少し違うだけだ。現実でもゲームでも、ボチボチという状態だ。
私は、このゲームをしていてあることに気が付いた。以下を見ていただきたい。
<ゲームの中>
一番のお得意さんだった人から、突如取引中止を告げられる。
<次の日の現実>
一番のお得意さんから取引を中止される。
<ゲームの中>
店に強盗が入る。
<次の日の現実>
店に強盗が入る。
<ゲームの中>
総理大臣が突如辞任。総理を務めていたプレイヤーが病気になったらしい。
<次の日の現実>
総理大臣が病気のため、突如辞任。
<ゲームの中>
マップ中最大の火山が噴火(ランダムに起きるイベントか?)。
<次の日の現実>
富士山が噴火
これはだだの一例で、他にも同じようなことが沢山あった。そう、ゲームと現実の世界がリンクしているようなのだ。ゲームで起きたことは、次の日に現実の世界でも起きるのだ。
このことに気付いた人は他にもいるらしい。あちらこちらで噂になっているようだ。
今日も例のオンラインゲームサイトに接続しようとした。しかし、全くつながらない。何度やっても駄目だ。どうやら、噂を聞きつけて多くの人が大挙してアクセスしたのだろう。それでサーバーがダウンしたようだ。
こんな場合次の日の現実はどうなるのだろう? 私は、それを楽しみにして眠りについた。
しかし、次の日は来なかった。
あとがき
私は、このゲームをしていてあることに気が付いた。以下を見ていただきたい。
<ゲームの中>
一番のお得意さんだった人から、突如取引中止を告げられる。
<次の日の現実>
一番のお得意さんから取引を中止される。
<ゲームの中>
店に強盗が入る。
<次の日の現実>
店に強盗が入る。
<ゲームの中>
総理大臣が突如辞任。総理を務めていたプレイヤーが病気になったらしい。
<次の日の現実>
総理大臣が病気のため、突如辞任。
<ゲームの中>
マップ中最大の火山が噴火(ランダムに起きるイベントか?)。
<次の日の現実>
富士山が噴火
これはだだの一例で、他にも同じようなことが沢山あった。そう、ゲームと現実の世界がリンクしているようなのだ。ゲームで起きたことは、次の日に現実の世界でも起きるのだ。
このことに気付いた人は他にもいるらしい。あちらこちらで噂になっているようだ。
今日も例のオンラインゲームサイトに接続しようとした。しかし、全くつながらない。何度やっても駄目だ。どうやら、噂を聞きつけて多くの人が大挙してアクセスしたのだろう。それでサーバーがダウンしたようだ。
こんな場合次の日の現実はどうなるのだろう? 私は、それを楽しみにして眠りについた。
しかし、次の日は来なかった。
あとがき
2005年12月27日
大相撲
僕は中学に入ると迷わず相撲部に入った。体も大きく、小学校のときには小学生相撲の全国大会で準優勝したこともある。将来はもちろん、相撲取りになるつもりだ。
でも、お父さんは僕が相撲取りになることに大反対だ。
「お前、知ってるのか! 相撲でちゃんと金を貰えるのは関取だけなんだぞ」
そんなことを言う。僕は頑張って関取になるつもりなのに、お父さんは絶対無理だって言う。やってみもしないで、何でそんなことが分かるんだろう?
僕は、思い切ってお父さんを説得する事にした。
「お父さん、僕やっぱり相撲取りになる!」
「お前は、まだそんなことを言っているのか! 絶対に駄目だ」
「僕、頑張るから。そして絶対に関取になる」
「そんな無理なことを言うんじゃない」
「どうして無理だって分かるの?」
「体力が違う」
「頑張って練習して体力をつけるよ」
「無理なんだ。生まれ持ったものが違うんだ」
「生まれ持ったものって?」
「残念ながら、お前は生粋の日本人だ。日本人の体力じゃ勝てないんだよ。外人には」
「…………」
それを言われると、僕は反論できなかった。やっぱり、駄目なのかもしれない。そう思った。
西暦202X年
大相撲の幕内、十両に日本人はひとりとしていない。
あとがき
でも、お父さんは僕が相撲取りになることに大反対だ。
「お前、知ってるのか! 相撲でちゃんと金を貰えるのは関取だけなんだぞ」
そんなことを言う。僕は頑張って関取になるつもりなのに、お父さんは絶対無理だって言う。やってみもしないで、何でそんなことが分かるんだろう?
僕は、思い切ってお父さんを説得する事にした。
「お父さん、僕やっぱり相撲取りになる!」
「お前は、まだそんなことを言っているのか! 絶対に駄目だ」
「僕、頑張るから。そして絶対に関取になる」
「そんな無理なことを言うんじゃない」
「どうして無理だって分かるの?」
「体力が違う」
「頑張って練習して体力をつけるよ」
「無理なんだ。生まれ持ったものが違うんだ」
「生まれ持ったものって?」
「残念ながら、お前は生粋の日本人だ。日本人の体力じゃ勝てないんだよ。外人には」
「…………」
それを言われると、僕は反論できなかった。やっぱり、駄目なのかもしれない。そう思った。
西暦202X年
大相撲の幕内、十両に日本人はひとりとしていない。
あとがき
2005年12月24日
SS Maker
「お前、ブログでショートショートを公開し始めたんだって?」
「ああ、そうだよ。毎日、一作ずつアップしる」
「凄いな。俺もショートショートが好きなんでよくネットで読んでるけど、最近ブログで頻繁に公開している人が多いよな」
「お前もやってみたら?」
「え? 俺は書けないよ」
「自分で書く必要ないよ。”SS maker”を使えばいいんだ」
「SS maker?」
「ああ、ショートショート自動作成ソフトだよ。無料でダウンロードできる」
「ショートショートの自動作成?」
「適当なキーワードと長さや雰囲気を設定すれば、webページの巡回で情報を集めて、ショートショートを創ってくれるんだ。みんな、これを使っているんだぜ。○○さんや△△さんも」
「そうだったのか。でも、同じソフトを使っている割には、みんな個性があるように思うけど」
「それは、ソフトの個性だよ。このソフトは、そのままでは大した話は創れないんだ。みんな、自分なりにチューニングしているんだよ。そして学習機能もあるからそれを使って自分なりのソフトに仕立て上げるんだ」
「そうだったんだ。それなら俺もやってみようかな?」
「やってみろよ。最初は面白くもない話ばかりだけど、チューニングと学習を繰り返していけば、だんだん面白い話が増えてくるぞ」
「よし、俺もやってみよう。面白いショートショートを沢山の人に読んで貰いたいからな」
「読んで貰いたい? お前、変なことを言うなあ」
「変なこと? 普通だろ? みんな読んで貰いたいから公開しているんだし」
「馬鹿だな。人のために公開している奴なんかいる筈ないじゃないか。上手くチューニングできたSS makerは高く売れるんだ。そのために公開して反応をみているだけだよ。所詮、金のためだよ、金!」
あとがき
「ああ、そうだよ。毎日、一作ずつアップしる」
「凄いな。俺もショートショートが好きなんでよくネットで読んでるけど、最近ブログで頻繁に公開している人が多いよな」
「お前もやってみたら?」
「え? 俺は書けないよ」
「自分で書く必要ないよ。”SS maker”を使えばいいんだ」
「SS maker?」
「ああ、ショートショート自動作成ソフトだよ。無料でダウンロードできる」
「ショートショートの自動作成?」
「適当なキーワードと長さや雰囲気を設定すれば、webページの巡回で情報を集めて、ショートショートを創ってくれるんだ。みんな、これを使っているんだぜ。○○さんや△△さんも」
「そうだったのか。でも、同じソフトを使っている割には、みんな個性があるように思うけど」
「それは、ソフトの個性だよ。このソフトは、そのままでは大した話は創れないんだ。みんな、自分なりにチューニングしているんだよ。そして学習機能もあるからそれを使って自分なりのソフトに仕立て上げるんだ」
「そうだったんだ。それなら俺もやってみようかな?」
「やってみろよ。最初は面白くもない話ばかりだけど、チューニングと学習を繰り返していけば、だんだん面白い話が増えてくるぞ」
「よし、俺もやってみよう。面白いショートショートを沢山の人に読んで貰いたいからな」
「読んで貰いたい? お前、変なことを言うなあ」
「変なこと? 普通だろ? みんな読んで貰いたいから公開しているんだし」
「馬鹿だな。人のために公開している奴なんかいる筈ないじゃないか。上手くチューニングできたSS makerは高く売れるんだ。そのために公開して反応をみているだけだよ。所詮、金のためだよ、金!」
あとがき
2005年09月23日
自作パソコン
「ちょっといいか?」
講義が終わり、大学から帰ろうとすると、ケイタに呼び止められた。
「何だ?」
「俺、今パソコンを自作しているんだけど、うまくいかなくってさ。お前、詳しいだろ? ちょっと見てくれないか」
まあ、一応俺は友達の中では、コンピューターに詳しい方だ。でもケイタが今頃聞いてくるなんて。
「お前、パソコンを自作するって言い出したの、一年も前じゃないか。まだできてなかったのか」
「ああ、金にも糸目をつけずに頑張っているんだけど、まだなんだ」
ケイタは、手先が器用なやつだ。頭もいい。それがどうして一年もかかるのだろう? 少し気になった。
「よし、じゃあ今から見に行こう」
そういって俺たちはケイタに家に向かった。
「ここが俺の部屋だ」
ケイタがドアを開けた。雑然と工具が並んでいる。片隅に液晶モニターが見える。あの辺りにパソコンのパーツが置いてあるようだ。俺は、モニターに近づいて確認した。
「これ、どこのモニターだ?」
そのモニターは今まで見たこともないものだった。デザインよりも機能重視といった感じで、俺の好きなタイプだ。
「それ、いいだろう? 苦労したんだぜ」
苦労した? どういうことだ。特別なモニターで手に入れるのに苦労したということか。
「で、何がうまくいかないんだ?」
「それが……、恥ずかしいんだけど」
「恥ずかしいってどういうことだ」
「他のパーツは全部出来たんだ。全てここにある。でも、肝心のCPUが上手く作れなくって」
CPUが作れない? そんなもん作れるわけないじゃないか。え、待てよ。他のものは全部できた? もしかしてこのパーツ全部自分で作ったのか。
ケイタは恥ずかしそうに下を向いて、ポツリと言った。
「情けないだろ。パソコンを自作するなんて大きなことを言って、心臓部のCPUすら作れないなんて……」
あとがき
講義が終わり、大学から帰ろうとすると、ケイタに呼び止められた。
「何だ?」
「俺、今パソコンを自作しているんだけど、うまくいかなくってさ。お前、詳しいだろ? ちょっと見てくれないか」
まあ、一応俺は友達の中では、コンピューターに詳しい方だ。でもケイタが今頃聞いてくるなんて。
「お前、パソコンを自作するって言い出したの、一年も前じゃないか。まだできてなかったのか」
「ああ、金にも糸目をつけずに頑張っているんだけど、まだなんだ」
ケイタは、手先が器用なやつだ。頭もいい。それがどうして一年もかかるのだろう? 少し気になった。
「よし、じゃあ今から見に行こう」
そういって俺たちはケイタに家に向かった。
「ここが俺の部屋だ」
ケイタがドアを開けた。雑然と工具が並んでいる。片隅に液晶モニターが見える。あの辺りにパソコンのパーツが置いてあるようだ。俺は、モニターに近づいて確認した。
「これ、どこのモニターだ?」
そのモニターは今まで見たこともないものだった。デザインよりも機能重視といった感じで、俺の好きなタイプだ。
「それ、いいだろう? 苦労したんだぜ」
苦労した? どういうことだ。特別なモニターで手に入れるのに苦労したということか。
「で、何がうまくいかないんだ?」
「それが……、恥ずかしいんだけど」
「恥ずかしいってどういうことだ」
「他のパーツは全部出来たんだ。全てここにある。でも、肝心のCPUが上手く作れなくって」
CPUが作れない? そんなもん作れるわけないじゃないか。え、待てよ。他のものは全部できた? もしかしてこのパーツ全部自分で作ったのか。
ケイタは恥ずかしそうに下を向いて、ポツリと言った。
「情けないだろ。パソコンを自作するなんて大きなことを言って、心臓部のCPUすら作れないなんて……」
あとがき
2005年06月18日
ハンドルネーム
ネットの世界では全くの別人になりすますことが多いそうだ。特に多いのは、おじさんが若い女性を騙ることだと言う。そのことを聞いて思った。
(わたしは逆におじさんになってやろう)
わたしは、十九歳の女子大生。どうせ別人になりすますのなら大きくかけ離れているほうがいい。わたしはおじさんとしてネットデビューすることにした。まず、あちこちの掲示板におじさんを騙って書き込みをした。誰も疑う人はいなかった。それはそうだろう。女子大生がおじさんになりすましているなんて思うはずがない。
それに味を占めたわたしは、ブログを開設した。もちろんおじさんとして。そこでも疑う人はいなかった。みんな、おじさんだと思い込んでいる。別人になりすますというのは本当に楽しい。
「実は、おじさんのふりをしてネットしてるんだ」
大学の友達に、そのことを話した。すると友達も
「私もやってるよ」
という返事。それから色々聞いて廻ったところ、みんなおじさんの名前でネットしているとの事。わたしだけじゃなかったんだと少し嬉しくなった。
ひとりの友達が言った。
「若い女性がおじさんを騙るのは当たり前よ。おじさんの名前を使っているのは、百%若い女性。若い女性の名前を使ってるのは、百%おじさん。常識よ」
ちょっと驚いた。
ということは、あの娘は実はおじさんで、あの人は若い女性? 頭が混乱してきた。でもそういうものらしい。
このことをブログに書いたら、わたしが女子大生だとバレるかもしれない。でも書かずにはいられなかった。タイトルは『ハンドルネーム』 どんな反応があるか楽しみだ。
あとがき
(わたしは逆におじさんになってやろう)
わたしは、十九歳の女子大生。どうせ別人になりすますのなら大きくかけ離れているほうがいい。わたしはおじさんとしてネットデビューすることにした。まず、あちこちの掲示板におじさんを騙って書き込みをした。誰も疑う人はいなかった。それはそうだろう。女子大生がおじさんになりすましているなんて思うはずがない。
それに味を占めたわたしは、ブログを開設した。もちろんおじさんとして。そこでも疑う人はいなかった。みんな、おじさんだと思い込んでいる。別人になりすますというのは本当に楽しい。
「実は、おじさんのふりをしてネットしてるんだ」
大学の友達に、そのことを話した。すると友達も
「私もやってるよ」
という返事。それから色々聞いて廻ったところ、みんなおじさんの名前でネットしているとの事。わたしだけじゃなかったんだと少し嬉しくなった。
ひとりの友達が言った。
「若い女性がおじさんを騙るのは当たり前よ。おじさんの名前を使っているのは、百%若い女性。若い女性の名前を使ってるのは、百%おじさん。常識よ」
ちょっと驚いた。
ということは、あの娘は実はおじさんで、あの人は若い女性? 頭が混乱してきた。でもそういうものらしい。
このことをブログに書いたら、わたしが女子大生だとバレるかもしれない。でも書かずにはいられなかった。タイトルは『ハンドルネーム』 どんな反応があるか楽しみだ。
あとがき
2005年06月06日
選挙
『選挙のお知らせ』というメールが届いた。何かよく分からないが選挙があるようだ。メールからリンクされている選挙サイトに跳ぶ。わざわざ投票に行かなくても自宅で投票できる。便利な世の中になったものだ。
選挙サイトには候補者の名前が並んでいる。その名前をクリックすると各候補者のホームページに行く。そこで、候補者の写真、業績、公約などを確認できる。一応、全ての候補者のページを見た後、ひとりを選んで投票した。
後日、選挙結果が発表された。やはり、あの候補者が当選したようだ。
(まあ、そうだろうな。ホームページのセンスが際立っていたからな)
思わず納得した。
―某所での会談―
「先生、ありがとうございます。おかげさまで当選することができました。これは、ほんのお礼です」
「いえいえ。それと例の件、よろしくお願いしますよ」
「分かっております。このわたくしにお任せ下さい」
この国の政治を影で操る存在。彼の職業は、webデザイナー。
あとがき
選挙サイトには候補者の名前が並んでいる。その名前をクリックすると各候補者のホームページに行く。そこで、候補者の写真、業績、公約などを確認できる。一応、全ての候補者のページを見た後、ひとりを選んで投票した。
後日、選挙結果が発表された。やはり、あの候補者が当選したようだ。
(まあ、そうだろうな。ホームページのセンスが際立っていたからな)
思わず納得した。
―某所での会談―
「先生、ありがとうございます。おかげさまで当選することができました。これは、ほんのお礼です」
「いえいえ。それと例の件、よろしくお願いしますよ」
「分かっております。このわたくしにお任せ下さい」
この国の政治を影で操る存在。彼の職業は、webデザイナー。
あとがき
2005年05月26日
メールで告白
朝起きて、いつものようにメールチェックをした。見たことのない差出人からのメールがある。ウィルスチェックして開いてみると、そこには一言、
「好き」
とだけ書いてあった。まあ、何かの勧誘メールだろうと思い、無視しようとした。ただ少し気になる。勧誘メールにしては簡単すぎる。もしかしたら、本当に女性からの告白かも? と思い始めた。
僕はこれまで女性とは縁のない生活を送ってきた。もちろん告白なんかされたことはない。もしかしたらこれが始めての――そう思うと、胸の鼓動が速くなっていく。迷った末、返信することにした。
「君は誰?」
返信を待った。しばらくすると、”新着メールが一件あります”の表示。思わず唾を飲み込んだ。手のひらにうっすらと汗を書いている。深呼吸をしてメールを開く。
「レイコ」
レイコ…いい名前だ。どんな字を書くのだろう。僕の中で勝手にレイコ像が広がっていく。初めて彼女ができる。僕は確信した。こうなると止められない。一気に勝負に出る。
「今度、会う?」
普通は、メールのやりとりで親交を深めてから会うのだろう。しかし、僕は待ちきれなかった。何と言っても始めての彼女になるかもしれないのだ。それに、好きと言ってきたのは向こうからだ。大丈夫。それに、メールの文面には必要なことだけしか書いてない。僕と同じように面倒なことが嫌いなタイプのはずだ。
いつ返事が返ってくるのだろう。そう思うとパソコンの前から離れることができない。なかなか返信がない。やはり、いきなり「会う?」は拙かったのだろうか?
ようやく返信が来た。どんな返事なのだろうか? メールを開くとき、思わず眼をつぶってしまった。
ゆっくりと目を開く。そこには、一言、
「うん」
よし、やった! 僕は思わずガッツポーズをした。これで、人生初めての彼女ができるかもしれない。
何時、何処で会おうか。それを考えなくてはいけない。デートなどしたことのない人間にとっては難題だ。こんなときはネット検索が一番。早速検索しよう―そう思ったとき、”新着メールを受信しました”の文字が表示された。
彼女からだ。何だろうと思いメールを開いてみる。
「あ、”ん”が付いちゃった。私の負けね。付き合ってくれてありがとう。さようなら」
何だ? どうしたんだ?
あとがき
「好き」
とだけ書いてあった。まあ、何かの勧誘メールだろうと思い、無視しようとした。ただ少し気になる。勧誘メールにしては簡単すぎる。もしかしたら、本当に女性からの告白かも? と思い始めた。
僕はこれまで女性とは縁のない生活を送ってきた。もちろん告白なんかされたことはない。もしかしたらこれが始めての――そう思うと、胸の鼓動が速くなっていく。迷った末、返信することにした。
「君は誰?」
返信を待った。しばらくすると、”新着メールが一件あります”の表示。思わず唾を飲み込んだ。手のひらにうっすらと汗を書いている。深呼吸をしてメールを開く。
「レイコ」
レイコ…いい名前だ。どんな字を書くのだろう。僕の中で勝手にレイコ像が広がっていく。初めて彼女ができる。僕は確信した。こうなると止められない。一気に勝負に出る。
「今度、会う?」
普通は、メールのやりとりで親交を深めてから会うのだろう。しかし、僕は待ちきれなかった。何と言っても始めての彼女になるかもしれないのだ。それに、好きと言ってきたのは向こうからだ。大丈夫。それに、メールの文面には必要なことだけしか書いてない。僕と同じように面倒なことが嫌いなタイプのはずだ。
いつ返事が返ってくるのだろう。そう思うとパソコンの前から離れることができない。なかなか返信がない。やはり、いきなり「会う?」は拙かったのだろうか?
ようやく返信が来た。どんな返事なのだろうか? メールを開くとき、思わず眼をつぶってしまった。
ゆっくりと目を開く。そこには、一言、
「うん」
よし、やった! 僕は思わずガッツポーズをした。これで、人生初めての彼女ができるかもしれない。
何時、何処で会おうか。それを考えなくてはいけない。デートなどしたことのない人間にとっては難題だ。こんなときはネット検索が一番。早速検索しよう―そう思ったとき、”新着メールを受信しました”の文字が表示された。
彼女からだ。何だろうと思いメールを開いてみる。
「あ、”ん”が付いちゃった。私の負けね。付き合ってくれてありがとう。さようなら」
何だ? どうしたんだ?
あとがき
2005年05月06日
裸の小説
俺は、ショートショートを書いてインターネットで公開している。ちょっとしたいたずら心でこんな文章を投稿してみた。
すごい作品ができました。ショートショートの革命と言ってもいい出来です。もちろん最高傑作です。ただ、少しオチが難しいので、頭の回転が鈍い人には理解できないかもしれません。そのため、頭の鈍い人には見えない文字設定で公開します。読める方だけお読みください。それでは、どうぞ。
いかがでしょうか? この斬新なオチ、きっと気に入って貰えるものと思います。コメント頂ければ幸いです。
もちろん頭が良くないと読めない文字設定などない。ただの空白だ。どんな反応が来るか気になる。
すぐに、コメントが返ってきた
〔コメント〕Aさん
読めました。本当に素晴らしい作品ですね。感心しました。
(いるんだよな。読める振りをするやつ。頭の良い人しか読めない文字なんてあるわけないじゃないか。裸の王様の話、知らないんだろうか?)
〔コメント〕Bさん
最高に面白いです。ミドリさんが死神に気付くところでは思わず声を上げてしまいました。
(ミドリさん? 死神? なんだそれ?)
〔コメント〕Cさん
本当に革命的ですね。ミドリさんが貧血で倒れるところ――これがラストへの伏線になっているとは思いませんでした。
(また、ミドリさん? どういうことだ?)
〔コメント〕Dさん
凄い! こんな話を思いつくなんて。ラストは本当に衝撃的。ミドリさん幸せに…。
〔コメント〕Eさん
アンビリーバブル! ミドリさんにあんな過去があったなんて…。
〔コメント〕Fさん
文句なしに面白い。ミドリさん最高!
(何なんだ? 本当に読めるのか? ミドリさん、これが主人公なんだろうか。一体どんな話なんだ。読んでみたい…。俺は作者のはずだ。作者が読めないなんて、そんなことがあっていいのだろうか?)
それからもコメントは続いた。全て絶賛の声。口コミで凄い勢いで広まったみたいだ。マスコミにも取り上げられ社会現象にまでなった。
(まさか作者が話を読めないなんて言いだせない…。ミドリさんってどんな人なんだ? 俺は一体どんな話を書いたんだ? 誰か教えてくれー)
遂に”ミドリさん”は、流行語大賞を受賞した。その受賞式、作者であるはずの俺はインタビューを受けた。
「こんな凄い話、どうやって思いついたのですか?」
「え、あのー、風呂に入ってるときにふと……」
「日本中で、ミドリさんのことを知らない人はいないというほどの大流行ですが、気分はいかがですか?」
「え? その……」
言葉に詰まった。日本中で、みどりさんを知らないのは俺だけのようだ。
あとがき
すごい作品ができました。ショートショートの革命と言ってもいい出来です。もちろん最高傑作です。ただ、少しオチが難しいので、頭の回転が鈍い人には理解できないかもしれません。そのため、頭の鈍い人には見えない文字設定で公開します。読める方だけお読みください。それでは、どうぞ。
いかがでしょうか? この斬新なオチ、きっと気に入って貰えるものと思います。コメント頂ければ幸いです。
もちろん頭が良くないと読めない文字設定などない。ただの空白だ。どんな反応が来るか気になる。
すぐに、コメントが返ってきた
〔コメント〕Aさん
読めました。本当に素晴らしい作品ですね。感心しました。
(いるんだよな。読める振りをするやつ。頭の良い人しか読めない文字なんてあるわけないじゃないか。裸の王様の話、知らないんだろうか?)
〔コメント〕Bさん
最高に面白いです。ミドリさんが死神に気付くところでは思わず声を上げてしまいました。
(ミドリさん? 死神? なんだそれ?)
〔コメント〕Cさん
本当に革命的ですね。ミドリさんが貧血で倒れるところ――これがラストへの伏線になっているとは思いませんでした。
(また、ミドリさん? どういうことだ?)
〔コメント〕Dさん
凄い! こんな話を思いつくなんて。ラストは本当に衝撃的。ミドリさん幸せに…。
〔コメント〕Eさん
アンビリーバブル! ミドリさんにあんな過去があったなんて…。
〔コメント〕Fさん
文句なしに面白い。ミドリさん最高!
(何なんだ? 本当に読めるのか? ミドリさん、これが主人公なんだろうか。一体どんな話なんだ。読んでみたい…。俺は作者のはずだ。作者が読めないなんて、そんなことがあっていいのだろうか?)
それからもコメントは続いた。全て絶賛の声。口コミで凄い勢いで広まったみたいだ。マスコミにも取り上げられ社会現象にまでなった。
(まさか作者が話を読めないなんて言いだせない…。ミドリさんってどんな人なんだ? 俺は一体どんな話を書いたんだ? 誰か教えてくれー)
遂に”ミドリさん”は、流行語大賞を受賞した。その受賞式、作者であるはずの俺はインタビューを受けた。
「こんな凄い話、どうやって思いついたのですか?」
「え、あのー、風呂に入ってるときにふと……」
「日本中で、ミドリさんのことを知らない人はいないというほどの大流行ですが、気分はいかがですか?」
「え? その……」
言葉に詰まった。日本中で、みどりさんを知らないのは俺だけのようだ。
あとがき
2005年03月11日
ブランドパソコン
「ミカ。これ見て」
そう言って、リカがバッグからパソコンを取り出した。
「あっ。それ、ベルフィスのパソコンじゃない」
「彼氏に貰ったんだ」
ベルフィスは、イタリアの高級ブランドパソコンメーカーで、細部にこだわる丁寧な作りこみと斬新なデザインが人気である。リカのパソコンは、そのベルフィスの新作で、色も今年流行のライトブルーだった。
「すごいじゃない。まだ、日本じゃあまり持ってる人いないわよ」
「うふふ。あっ、ミカのパソコンも見せてよ」
「いいわよ」
そう言って、私も自分のパソコンを取り出した。
「え? ユニバルン?」
以外だったようだ。ユニバルンは、日本のメーカー。信頼できるメーカーではあるが、決して高級ではない。いつもブランド品を持ち歩く私が、ユニバルンを持っていることが信じられない様子。
「たまには、こういうのもいいかと思って…。あっ、そうそう、面白いサイト見つけたんだ」
そう言いながら、パソコンの電源を入れ、ネットに接続した。
「ここ、ここよ。見て。可愛いでしょう」
「え? このブラウザー。シャミロン?」
気が付いたようだ。そう、面白いサイトというのは口実で、本当はこのシャミロンのブラウザーソフトを見せたかったのだ。シャミロンのブラウザーソフトは、最高級のブランド。今は、ハードではなくて、ソフトでおしゃれする時代。ユニバルンのパソコンにシャミロンのブラウザー、これが最高のおしゃれ。
「あっ、メールが着たみたい」
ナイスタイミング。これで、リカにメールソフトも見せることができる。
「それって…。フィッチのメーラーじゃない? すごい…」
高級ブランドフィッチのメールソフト。シャミロンのブラウザーとの組み合わせのセンスも抜群だと思う。自慢できて最高に気分がいい。
そのとき、モニターに”ウィルスの侵入を阻止しました”の文字が。
「セキュリティーソフト、スタルスなの?」
スタルスのセキュリティーソフト。これも自慢の一品。またまた、ナイスタイミング。
「あら、お二人で何なさってるの?」
いやなやつが来た。ユカだ。絵に描いたような嫌味なお嬢様。
「あら、ミカさん。それシャミロンのブラウザーじゃなくって? わたくしと
一緒ですね。ほら」
ユカはそう言って自分のパソコンを見せた。ゲミソンのパソコンらしいが、知らない形。多分、オーダーメードだ。一応、モニターに目をやる。
「これって…」
確かにシャミロンのブラウザー。でも…。シャミロンはシャミロンでも、私のとは格が違う。幻と言われる限定モデルだ。本物を目にすることがあるなんて…。
「そうそう。このサイトご覧になったことありまして?」
と言って、サイトを開く仕草。それってもしや?
「お気づきになりました?」
「その拡張機能は…。世界限定十人だけの。手に入れるためには、小国の国家予算並の金額が必要という…」
こいつだけには、敵わない。本当、いやな時代になったものだ。
あとがき
そう言って、リカがバッグからパソコンを取り出した。
「あっ。それ、ベルフィスのパソコンじゃない」
「彼氏に貰ったんだ」
ベルフィスは、イタリアの高級ブランドパソコンメーカーで、細部にこだわる丁寧な作りこみと斬新なデザインが人気である。リカのパソコンは、そのベルフィスの新作で、色も今年流行のライトブルーだった。
「すごいじゃない。まだ、日本じゃあまり持ってる人いないわよ」
「うふふ。あっ、ミカのパソコンも見せてよ」
「いいわよ」
そう言って、私も自分のパソコンを取り出した。
「え? ユニバルン?」
以外だったようだ。ユニバルンは、日本のメーカー。信頼できるメーカーではあるが、決して高級ではない。いつもブランド品を持ち歩く私が、ユニバルンを持っていることが信じられない様子。
「たまには、こういうのもいいかと思って…。あっ、そうそう、面白いサイト見つけたんだ」
そう言いながら、パソコンの電源を入れ、ネットに接続した。
「ここ、ここよ。見て。可愛いでしょう」
「え? このブラウザー。シャミロン?」
気が付いたようだ。そう、面白いサイトというのは口実で、本当はこのシャミロンのブラウザーソフトを見せたかったのだ。シャミロンのブラウザーソフトは、最高級のブランド。今は、ハードではなくて、ソフトでおしゃれする時代。ユニバルンのパソコンにシャミロンのブラウザー、これが最高のおしゃれ。
「あっ、メールが着たみたい」
ナイスタイミング。これで、リカにメールソフトも見せることができる。
「それって…。フィッチのメーラーじゃない? すごい…」
高級ブランドフィッチのメールソフト。シャミロンのブラウザーとの組み合わせのセンスも抜群だと思う。自慢できて最高に気分がいい。
そのとき、モニターに”ウィルスの侵入を阻止しました”の文字が。
「セキュリティーソフト、スタルスなの?」
スタルスのセキュリティーソフト。これも自慢の一品。またまた、ナイスタイミング。
「あら、お二人で何なさってるの?」
いやなやつが来た。ユカだ。絵に描いたような嫌味なお嬢様。
「あら、ミカさん。それシャミロンのブラウザーじゃなくって? わたくしと
一緒ですね。ほら」
ユカはそう言って自分のパソコンを見せた。ゲミソンのパソコンらしいが、知らない形。多分、オーダーメードだ。一応、モニターに目をやる。
「これって…」
確かにシャミロンのブラウザー。でも…。シャミロンはシャミロンでも、私のとは格が違う。幻と言われる限定モデルだ。本物を目にすることがあるなんて…。
「そうそう。このサイトご覧になったことありまして?」
と言って、サイトを開く仕草。それってもしや?
「お気づきになりました?」
「その拡張機能は…。世界限定十人だけの。手に入れるためには、小国の国家予算並の金額が必要という…」
こいつだけには、敵わない。本当、いやな時代になったものだ。
あとがき
2005年01月29日
ブログペット
「部長、できました。ブログから人間の書いた記事を抽出するプログラムです。」
「そうか。これで…」
ブログが流行して、かなりの年月が経った。いつの頃からだろうか? 皆がブログの中でブログペットを飼い始めたのは。ブログペットは、どんどん進化していった。特に、言葉を覚えて、自分で記事を書く機能の進化が急激だった。気がつくと、ブログの記事のうちブログペットが書いたものの割合が、半分を超えた。こうなると記事の内容を見るまで、人間の書いたものか、ブログペットの書いたものかが判断できない。記事を読む前に、人間の書いたものがわかるようなプログラムの開発が望まれていたのである。それが、今完成したのだ。
「このプログラムを使うと、人間が書いた記事のタイトルが、マーキングされます」
「よくやった。これでもう、人間なんかの書いた面白くもない記事を読まなくて済むようになるぞ…」
「そうか。これで…」
ブログが流行して、かなりの年月が経った。いつの頃からだろうか? 皆がブログの中でブログペットを飼い始めたのは。ブログペットは、どんどん進化していった。特に、言葉を覚えて、自分で記事を書く機能の進化が急激だった。気がつくと、ブログの記事のうちブログペットが書いたものの割合が、半分を超えた。こうなると記事の内容を見るまで、人間の書いたものか、ブログペットの書いたものかが判断できない。記事を読む前に、人間の書いたものがわかるようなプログラムの開発が望まれていたのである。それが、今完成したのだ。
「このプログラムを使うと、人間が書いた記事のタイトルが、マーキングされます」
「よくやった。これでもう、人間なんかの書いた面白くもない記事を読まなくて済むようになるぞ…」
2005年01月22日
米中逆転
―20XX年 WEB新聞ニュース抜粋―
【ついに逆転、文字の使用】
単なる文字の羅列だけで、感情を伝えるのには、限界がある。そのため、メールに絵文字などの記号を使用することが、よく行なわれていた。しかし、使える記号が少なかったこともあり、当初は文章のごく一部に使われているに過ぎなかった。しかし、文字コードの国際化により、世界各国の文字が使用できるようになってから、事態は急速に進展した。
アメリカでも、文章に記号として、他国の文字を使うことが増え始め、特に中国の文字である漢字が、便利に使用されるようになった。漢字は、文字のひとつひとつに意味を持つ表意文字であり、記号として使うのに都合が良かったのである。例えば”smile”の替わりに”笑”と記述するといった具合である。
これに慣れてくると、一目でおおまかな意味がわかるという利点をいかし、ウェブサイトなどでの使用が急増した。また、使用される漢字の種類も爆発的に増加していった。この頃、世界一の人口を持つ中国が、本格的なインターネット時代に入ったことも流行を後押しした。
これに対し、中国では、文章の一部をアルファベットで置き換えることが流行した。中国語の読みの音に対応するアルファベットを使用し、文章にアクセントをつけるのが目的だった。これにより、逆に漢字の部分が強調されるという効果があった。中国での文字のアルファベット化は急速に進み、強調したい部分を残して、残りを全てアルファベットにするといった使い方が数多く見られるようになった。
翻訳ソフトが、漢字まじりの英語、アルファベットまじりの中国語に完全対応したこともあり、この文字の国際化現象は、本当に急速に進展した。
そして、20xx年10月、ついにアメリカのWEBサイトでの漢字の使用割合が、中国のサイトでの使用割合を上回ったのである。今後の動向が注目されるが、専門家によると、漢字4割、アルファベット6割の場合が、最もバランスが採れているため、両国ともこの割合に落ち着く可能性が高いとのことだ。
【ついに逆転、文字の使用】
単なる文字の羅列だけで、感情を伝えるのには、限界がある。そのため、メールに絵文字などの記号を使用することが、よく行なわれていた。しかし、使える記号が少なかったこともあり、当初は文章のごく一部に使われているに過ぎなかった。しかし、文字コードの国際化により、世界各国の文字が使用できるようになってから、事態は急速に進展した。
アメリカでも、文章に記号として、他国の文字を使うことが増え始め、特に中国の文字である漢字が、便利に使用されるようになった。漢字は、文字のひとつひとつに意味を持つ表意文字であり、記号として使うのに都合が良かったのである。例えば”smile”の替わりに”笑”と記述するといった具合である。
これに慣れてくると、一目でおおまかな意味がわかるという利点をいかし、ウェブサイトなどでの使用が急増した。また、使用される漢字の種類も爆発的に増加していった。この頃、世界一の人口を持つ中国が、本格的なインターネット時代に入ったことも流行を後押しした。
これに対し、中国では、文章の一部をアルファベットで置き換えることが流行した。中国語の読みの音に対応するアルファベットを使用し、文章にアクセントをつけるのが目的だった。これにより、逆に漢字の部分が強調されるという効果があった。中国での文字のアルファベット化は急速に進み、強調したい部分を残して、残りを全てアルファベットにするといった使い方が数多く見られるようになった。
翻訳ソフトが、漢字まじりの英語、アルファベットまじりの中国語に完全対応したこともあり、この文字の国際化現象は、本当に急速に進展した。
そして、20xx年10月、ついにアメリカのWEBサイトでの漢字の使用割合が、中国のサイトでの使用割合を上回ったのである。今後の動向が注目されるが、専門家によると、漢字4割、アルファベット6割の場合が、最もバランスが採れているため、両国ともこの割合に落ち着く可能性が高いとのことだ。
2005年01月16日
天気予報web
【明日の天気は”晴れ”】
モニターに、これだけが大きく映し出されていた。
「何だ?」
モトヤスは、驚いて入力したURLを確認した。
そこには、ランダムな文字列。近くにあった雑誌を引き寄せ、そこに書いてあるURLと見比べた。
(ひどい打ち間違いだ)
雑誌で観たウェブサイトを閲覧しようとして、URLを打ち間違えたようだ。
「それにしても、このページは何の意味があるんだろう?。天気予報だとしても、一体どこの天気なんだ?」
そのまま、他のサイトに移ろうとしたが、何となく気になり、お気に入りに追加した。
次の日は、晴れだった。
それから、たまにそのページを覗いてみたが、表示されるのはいつも、
【明日の天気は”晴れ”】
であった。
多分、更新すらしていないのだろう。ただ、モトヤスが、それを見た次の日は必ず晴れていた。まあ、単なる偶然としか思わなかったが。
ある夜、モトヤスはテレビの天気予報を観てため息をついた。
「明日は、雨か……」
次の日は、会社の創立記念日で休日だった。毎年、創立記念日には、会社の仲間とゴルフをする。週末料金の高いゴルフ場が、平日料金で利用できるからだ。モトヤスも楽しみにしていたが、天気予報では大雨であった。
「まあ、気休めに。おまじない、おまじない」
と言って、パソコンを立ち上げ、例のページを確認した。
【明日の天気は”晴れ”】
次の日、起きてみると外は快晴だった。
それから、モトヤスは例のページをよく確認するようになった。そして、ページを見た次の日は必ず晴れるのだ。
「このページを見たら、見た人の住んでいる場所は、次の日晴れるんだ」
モトヤスは、確信するようになっていった。そして、それを証明するチャンスを待っていた。
ある日、そのチャンスがやってきた。モトヤスが住む場所に向けて、大型の台風が向かってきたのだ。次の日は完全に直撃、朝から大荒れとの予報であった。モトヤスは、例のページを開けた。
【明日の天気は”晴れ”】
その文字を確認して、ベッドに入った。
次の日の朝、モトヤスが目覚めると、窓から光が差し込んでいた。急いで飛び起き、カーテンを開けると、まばゆいばかりの日の光が・・。
台風が、Uターンし南に方向転換したとのことであった。観測史上始めてのことで、原因を誰も説明することができなかった。
モトヤスは、このページの持つ力を確信した。
(もし、このページの存在が、知れ渡ったら…。みんなが、このページを見るようになったら、雨が降らなくなる!)
今のところ、このことを知っている人間は、モトヤスの他にはほとんどいないに違いない。絶対に秘密にしなければ…。
しかし、個人の秘密にするには、事が重大すぎた。誰かに話したいという衝動が、日に日に強くなっていった。
モトヤスは堪えきれなくなった。
モトヤスは、ひっそりとブログを始めた。そして、この出来事についての記事を書き、最後に例のページへのリンクを張ることにした。
(もし、誰かがこのブログを見つけたら。リンクを押したら。このページの力がわかったら。その時は…)
誰かに見つけて欲しい。誰にも見つからないで欲しい。複雑な気持ち。後は偶然に任せて、このことは忘れてしまおう。
モトヤスは、深呼吸をして、そして記事をアップした。
【明日の天気は”晴れ”】

