まえぞうのショートショートへようこそ。全部読み切りで、短い時間で読める小説です。ラジオドラマにも採用されています。少しの間、楽しんでいって下さい。

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2007年07月27日

ラジオ体操

 朝六時半、近くの広場に近所の人たちが全員集まる。

「いくら何でもやりすぎですよね」

「そうですね」

 隣のおじさんの言葉に相槌を打つ。
 国民の健康増進のため、全国民にラジオ体操への参加が義務づけられた。さすがに大反対の声が挙がったが、政府はこれを押し切ったのだ。

『ラジオ体操第一』

 ラジオから音楽が流れ始めた。俺は以前から朝早く起きて運動するのが日課だったので、最初はラジオ体操法案も「まあいいか」と思っていた。しかし法案が具体的になるにつれて、さすがにやりすぎだと思うようになった。

 とりあえず、音楽に合わせて体操をする。頭を真っ白にして、ただ体を動かすだけ。そうでないとやっていられない。

 実際、ラジオ体操によって様々な問題が起きている。生産性が低下し、日本経済も大きな打撃を受けている。それはそうだ。朝から疲労しきって仕事どころではない。ラジオ体操に使う時間も大きなロスだ。

 とにかく、体だけを動かす。どのくらい時間が経ったのかわからない。それでも体を動かす。

 後どれくらいで終わるのか、ラジオの音に耳を傾けてみる。

『ラジオ体操第八十三』

 まだ、半分も終わっていない。今日も長い朝が続く。

あとがき
posted by まえぞう at 06:40| Comment(12) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート

2007年07月20日

自分の未来

 僕には予知能力がある。目の前にいる人に向かって意識を集中すると、その人の未来が見えるのだ。しかし残念なことに自分の未来はわからない。鏡に写った自分の姿に意識を集中しても無駄なのだ。直接見た人の未来しかわからないようだ。
 何だか、悔しい。はっきり言って他人の未来なんか興味がない。僕が知りたいのは、自分の未来だけだ。
 自分の未来を知りたい、人の未来がわかるだけにその気持ちがどんどん強くなっていった。そして、自分の未来がわかる方法を必死になって探した。そして見つけた。

 もうすぐ自分の未来がわかる。僕と同じ能力を持った人間がもうひとりいることを見つけ出したのだ。その人とこの喫茶店で待ち合わせをしている。お互いに相手の未来を見てそれを教えあう約束をしたのだ。
 ついにその相手が来た。簡単な自己紹介の後、向かい合って座り、互いに相手に意識を集中する。見えた!

「あ!」

 その瞬間、ふたり同時に大きな声を上げた。
 その後は声にならない。
(そんな馬鹿な。やっと自分の未来がわかるときが来たのに)
 そして……

『今日のニュースです。都内の喫茶店でガス爆発事故が発生しました。店内にいた客と従業員は全員死亡……』

あとがき
posted by まえぞう at 06:49| Comment(10) | TrackBack(1) | SFっぽいショートショート

2007年07月13日

耳なし

「昔、平家の怨霊に取り憑かれたことがあるんだ。そのままでは死んでしまうというとき、、あるお寺の和尚さんが助けてくれた。和尚さんと小僧が全身に般若心経を写し、怨霊から見えないようにしてくれたんだ。そして、怨霊がやってきても絶対に返事をしてはいけないと言われた。その夜、平家の怨霊がやってきた。『姿が見えない。あいつはどこに行ったのか』怨霊の声が聞こえたが、声を出さないようにした。『仕方がない。証拠に耳だけでも持って帰ろう』怨霊はそう言って耳だけを切り取って持って行った。耳にだけ、般若心経を写し忘れていたんだ」

「それで、そんなタヌキみたいになったんだ!」

「コラ! タヌキだなんて失礼だ。僕はれっきとしたネコ型ロボットなんだぞ!」


あとがき
posted by まえぞう at 18:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート

2007年07月09日

ある男の願望

 僕は、女性に全く相手にされない。恋人が欲しいという願望は、人一倍あるのだが、それが現実になったことは一度もない。
 それもこれも、この頭のせいだ。若いときから極端に髪の毛が少ない。この頭を見ただけで女性は嫌悪感を抱くようだ。
 僕は長年の研究の結果、この状態を変える方法をあみ出した。名付けて『女性が髪の毛の少ない男を好きになるマシン』を発明したのだ。この装置からは、一種の電磁波が発生する。その影響下にある女性は、髪の毛が少ない男を好きになるという画期的な発明品だ。その電磁波は地球全体を覆う。つまり、世界中の女性が髪の毛の少ない男を求めるようになるのだ。僕は、装置の電源を入れた。

 僕は、女性に全く相手にされない。街には、スキンヘッドにした男たちが溢れ、女性は彼らに夢中になった。原因は髪の毛だけではなかったようだ。
 それもこれも、この脂ぎった顔のせいだ。この顔を見ただけで女性は嫌悪感を抱くようだ。
 僕は、新しい発明をした。名付けて『女性が脂ぎった顔の男をを好きになるマシン』だ。僕は装置の電源を入れた。

 僕は、女性に全く相手にされない。街には、顔に脂を塗りたくった男たちが溢れ、女性は彼らに夢中になった。
 それもこれも、この口臭のせいだ。この匂いで女性は嫌悪感を抱くようだ。
 僕は、新しい発明をした。名付けて『女性が口の臭い男を好きになるマシン』だ。僕は装置の電源を入れた。

 僕は、女性に全く相手にされない。街には、臭い香水を口にした男たちが溢れ、女性は彼らに夢中になった。
 それもこれも、この目つきのせいだ。人を睨むように見つめてしまう視線に女性は嫌悪感を抱くようだ。
 僕は、新しい発明をした。名付けて…………。


あとがき
posted by まえぞう at 20:10| Comment(6) | TrackBack(0) | 現代劇風ショートショート

2007年07月05日

輪廻転生

 輪廻転生。
 熱心ではなかったが、一応仏教徒だったのでその言葉は知っていた。しかし本当に生まれ変わりがあるとは思っていなかった。俺は、今、女性の腹の中にいる。もうすぐ生まれ変わりるのだ。多分どこかの時点で今の俺の記憶、新しい命にとっての前世の記憶は消えてしまうのだろう。しかし生まれた後に短期間でも今の記憶が残っていたら、やってみたいことがある。生まれてすぐにこう言ってやるのだ。

「天上天下唯我独」

 そう、釈迦が生まれた時に言った言葉だ。そして皆の驚く顔が見たい。
 そのとき、俺のまわりの空間が大きく収縮し、脈動した。どうやら生まれるらしい。俺は強い力で産道と思われる狭い空間にねじり込まれていった。
 頭が締め付けられる。
 苦しい。
 想像を絶するほどの強い苦しさと辛さだ。少しでも気を抜くと意識を失いそうだ。もし意識を失ったら、その時点で今の記憶が消えるのだろう。
 気を抜いてはいけない。何とか記憶を保ったまま生まれて皆を驚かせるのだ。
 その想いだけでこの辛さを耐えた。耐えて耐えて耐え抜いた。

 急に辺りが明るくなった。ついに誕生の瞬間を迎えたのだ。まだ苦しさは治まらない。今にも意識を失いそうだ。その前に言うのだ。あの言葉を。しかし、慣れない体でなかなか声が出ない。
 それでも絞り出すように言った。皆の驚く姿を見たい一心で。

「てん…じょうて…んげ…ゆいが…どく…そん…」

 やった! 何とか言えた!
 そのときナースと思われる女性の声が聞こえた。

"Ah! What a cute baby! it's strange crying!"

 その瞬間、俺は意識を失った。


あとがき
posted by まえぞう at 19:14| Comment(8) | TrackBack(0) | SFっぽいショートショート