楽屋でテレビを観ていると、急に画面が変わった。臨時ニュースらしい。緊張した表情のアナウンサーがアップで映し出される。
『先ほど、日本時間15時、国連本部に宇宙人からの宣戦布告のメッセージが届きました。宇宙人は、地球人を皆殺しにすると宣言した模様です』
廊下で多くの人が走り回る音が聞こえて、騒がしくなった。俺は、少しの間呆然としていた。というより、呆然としたふりをしていた。
俺のような芸人は、よくどっきり番組の標的にされる。今回も間違いない。絶対にどっきりだ。それならば、しばらく呆然としていた方がいいと判断したのだ。
急に楽屋のドアが開いて、ADが叫んできた。
「今日の撮影は中止です!!」
今日は、聞いたこともない番組の収録のために、テレビ局に来たのだ。それも、どっきりだと思った理由のひとつだ。どうせ、俺をおびき出すためのニセ番組だろう。
「外に逃げろ!!」
大きな声が聞こえた。そろそろ、慌ててパニックになった振りをした方がいい。どっきり番組は、面白くなければ放送されない。みんな、俺の慌てる姿を見たがっているのだから、それに合わせなければならない。
俺は、楽屋を飛び出した。廊下は、パニックになった人で一杯だった。かなり手の込んだどっきりのようだ。俺は人を押しのけて、エレベーターに乗り込んだ。みんなが期待しているように行動しなければならない。
一階に到着すると、すぐに建物の外に飛び出した。とにかく、慌ててパニックになったふりをするのだ。
外も人で溢れかえっていた。一体、何人のエキストラを使っているのだろう。これほど、手の込んだどっきりは初めてだ。
空を見上げて驚いた。何台もの円盤が空をとんでいたのだ。どんなトリックを使ったのかわからない。本当に手が込んでいる。
円盤から、次々と光線が発射される。その光線に当たった人は、その場に倒れていく。倒れ方も迫力がある。エキストラとは思えないほどの演技力だ。これだけ凄いどっきりに登場できるというのは、芸人冥利に尽きるというものだ。俺は、パニックになった振りをして、必死になって逃げまくった。周りの群衆より目立つように、手振り身振りを大きくし、大声で叫び続けた。
そのとき、円盤から発射された光線が俺に当たった。そのとき、これまでに感じたことのない衝撃を全身に感じた。だんだん意識が遠くなっていく。そのとき初めてわかった。これはどっきりなどではない。本当に宇宙人が攻めてきたのだ。光線に当たって倒れた人たちは演技などではなかったのだ。――そして、俺は意識を失った。
一時間後、国連本部に再び宇宙人からのメッセージが届いた。
『お騒がせしてすいません。先ほどの宣戦布告は嘘でした。我々は宇宙第一テレビのものです。宇宙の辺境に済む人類にどっきりを仕掛けるという番組の撮影だったのです。あの光線は、しばらく気を失うだけで命には全く影響ありませんので、ご安心下さい。お陰でいい映像が撮影できました』
この番組は宇宙中で放映され、評判を呼んだようだ。特に、日本という国のある芸人の慌てっぷりが、最も人気だったそうである。
あとがき