「いいよな、チンパンジーは! それくらいで天才なんて呼ばれて。あーあ、俺もチンパンジーになりたい!」
人間の中では馬鹿の方に分類されている俺は、ついそう言ったのだ。その後のことは覚えていない。神様か何かが望みを叶えてくれたのかもしれない。まあ、人間に未練がある訳でもないのでチンパンジー生活でも始めてみようと思った。
とりあえず天才チンパンジーを目指すことにした。慣れない体で動きがぎこちなく、特に細かい動きが難しい。天才チンパンジーになるには数字が書けなければならないが、チンパンジーの手というのはそういうことに向いていないらしい。かなりの訓練の後、何とか数字だけは書けるようになった。
それから外に出た。チンパンジーがいるということで少し騒ぎになったようだが、俺はおとなしく捕まった。そして動物園に送られた。
俺は飼育員の前で地面に指で数式を書いた。
「2+3=5」
飼育員はそれを見て驚いた。俺は続けて書いた。
「3+4=7」
飼育員の目が輝いたのが、はっきりと見えた。俺は天才チンパンジーとして、大々的に売り出され、その動物園の目玉となった。
注目を浴びたのを確認して、俺は引き算を披露した。あのマイちゃんにはできない芸当だ。これで、完全に勝った。天才チンパンジーと言えば俺のことを指すようになり、以前人気だったマイちゃんは忘れ去られていった。
注目されるというのは気持ちがいい。俺は、天才チンパンジー生活を思いっきり満喫した。人間時代には感じたことのない幸福感に満たされていた。
そんなとき、テレビを観ていた飼育員の目が曇ったことに気付いた。画面を見てみると、あのマイちゃんが映っているではないか。完全に忘れさられた筈なのに、またテレビに出ている。
映像では以前と同じように、出された問題の答えを書くマイちゃんの姿が映し出されている。その問題を見て俺は驚いた。そして、画面の下にはキャッチコピーがはっきりと書かれていた。
『天才チンパンジーのマイちゃん。分数の足し算に成功!』
事態を理解して、俺は呆然となった。完全な敗北だ。これで、もう俺に注目が集まることは二度とない……。
あとがき
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