2006年12月12日

幽体離脱

 僕が、その霊能力者を知ったのは、一年前だ。彼は、人間を幽体離脱させることができるというのだ。僕はそれを聞いて、昔の夢を思い出した。透明人間になってみたい、そう思っていたことを。理由は……男なら誰しも考えるようなことだ。
 幽体は、人からは見えない。透明人間のようなものだ。おまけに、どこでも好きなところにすぐ行ける、そして壁もすり抜けることができる。透明人間よりも自由なのだ。
 ただ、その霊能力者に幽体離脱を頼むには、沢山のお金が必要なのだ。俺はこの一年間、節約生活を続け、何とかその金を貯めることができた。

「お願いします。このお金で僕を幽体離脱させて下さい」

 僕が頼むと霊能力者は、大きく頷いた。そして、説明を始めた。

「今から、君を幽体離脱させよう。ただ、離脱できる時間は一時間だけだ。その前に自分の体に戻らなければ、死んでしまう。それと、当然のことだが、離脱できるのは君の体だけだ。服などの身につけているものは、肉体の方に残ったままだ」

 僕は、納得した。一時間あれば充分だ。そして、体だけが離脱することも承知している。幽体になった自分は裸だということだが、どうせ人には見えないのだ。そんなこと、透明人間になりたいと思った頃からわかっている。

「それでは、幽体離脱を開始する。そこのベッドに横になりなさい」

 僕は、言われたとおりにした。霊能力者は、何やら呪文のようなものを唱えている。わくわくしてきた。幽体離脱できたら、まずどこに行こうか? やはり女風呂かな? そう思うとついにやけてしまう。

「えい!」

 霊能力者が大きな声で気合いを入れた。その瞬間、体がふわっと浮いたような気がした。そして、僕の意識はだんだん肉体から離れていった。幽体離脱できたのだ。僕は天井まで登り、下を見た。多分、あれが僕の肉体なんだろうなと思って、ぼんやりとしたかたまりを見つめた。
 離脱できるのは体だけ、身につけているものは肉体に残ったまま、霊能力者の言葉が頭をよぎる。そういうことか、やっと気付いた。僕は極度の近視で眼鏡がないと殆ど何も見えないのだ。

 せっかく一年間貯めた金で、幽体離脱したのだ。何としても有効に使わなければ。でも、何をすればいいのだろう? 一生懸命考える。その間に、着々と時間が過ぎていく……。

あとがき
posted by まえぞう at 20:31| Comment(4) | TrackBack(1) | 現代劇風ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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